“夢を見るのです。ハイラルを覆う、分厚い暗雲。暗くなる未来。”
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「姫様逃げてください!!姫!!」
「嫌です!わたしは一人で逃げたくなんかっ・・・・!」
「何故言うことが聞けない!!?」
ゼルダは怒鳴られたことにビクッと肩を揺らした。
ジオが今までゼルダに怒鳴ったことなど一度もなかったからだ。思った以上に大きな声でゼルダの心臓は、バクバクと音を立てる。流していた涙も引っ込んだ。
ガノンドロフが反逆を起こした。
ゼルダは前々からそれを夢で見ていたし、知っていた。だからジオには伝えていたのだが、ジオはそんな子供の夢の話を信じるといったにも関わらず、城下町を出なかった。
それはどうしてか
ジオはもとより逃げるつもりなどなかった
ガノンドロフが魔王となる夢が本当なのならば、姫様がせめて、逃げ道を見つけ出せるようにするために、守れずとも、逃げ道ぐらいは確保できるように傍にいると決めていたからだ。一度誓った忠誠はあまりにも強く、ジオはもう必死だった。姫様がいなければ、それこそハイラルは終わるのだ
勇者が来ても、姫様がいなければ、国はどうにもならない
「俺が姫様の盾になれるのもたったの一瞬!!本当に一瞬だ!嫌だのなんだの言って俺に迷惑かける前にさっさとどっか行け!!」
「だ、だって、」
「だってもクソもあるか!!俺はお前みたいに逃げる道なんてない!これが兵士の末路だ!!」
いいから逃げろっつってんだよ!
叫ぶジオの声が鼓膜を激しく震わせる。いやだ、とジオに手を伸ばしたってジオはいつものように笑って振り向いてはくれない。インパがゼルダの体を抱えて走り出した
ジオだって、家族が城下町にいる
ゼルダよりも、本当は、家族を守りたかった
でも家族のことは他の兄や父や弟に任せて逃げ切れていることを願うしか、他にジオに出来ることなどなかったのだ。王家に仕えたのは自分自身であり、そうなれば守るのは優先順位は王や姫様になる。ジオが真っ先に王ではなく姫様を選らんだのには特に理由はなかったが、それでも守らなければと思った
どんどん離れていく、見慣れた鎧の後姿に、ゼルダは叫んだ。発狂した。
どうして一緒に逃げてはくれないのと、なんで自分のために命を絶やすのと、口に出さずにはいられなかった。兵士の末路がこれだといわれてしまえばもう、それまでだった
咄嗟に持ってきてしまったマフラーを抱きかかえて、インパの腕の中で姫は絶望に打ちしがれる
本当は嫌なのに。本当は怖いのだろうに
ガノンドロフに剣を向けた男は、涙を呑み込んで、諦めたように笑った
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