掬う愛情 | ナノ
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▼ end

リンクがいなくなってしまってから数日。

どういうわけか世界は時を戻していた。リンクが我が家に来たあの日に、私は戻っていたのだ。まるでリンクが元からここにいなかったかのように、誰もリンクのことなんて覚えていない。私の年齢も、水の年齢も1歳と20歳に元通り


でも私の首にはあのネックレスがぶら下がってはいなかった


玄関に置いてある虫かごと虫網を手に取ってみれば、それらはリンクが使っていた証拠として薄汚れたまま残されている。虫かごの蓋の部分が少しだけ壊れかけていて、これはリンクが転んでしまったときに地面にぶつけてやってしまったものだと、ふと思い出した

虫網なんて網の部分が棒から取れ始めている

私にとっては数日前のことだというのに、どうしても懐かしくて懐かしくて、水と一緒に思い出に浸った。リンクに初めて買ってあげた小さい靴や、この前まで履いていたもの。リンクの洋服。リンクの着物。リンクが使っていた物全部、私はかき集めるようにして押入れにいれてしまった

でも、別にそれは悪い意味ではなくて。

これから私は涙をとめどなく溢れさせる日々が続くのだろう。そのときにリンクが確かにこの家にいたのだという証拠が、必ず欲しくなってくるはずだ

そういったときのためにこの押入れにリンクのものを閉じ込めておこうと思う。

リンクのことを忘れてしまおうとはまったく思わない。それが逆に辛いことだとしても、私は子供のことを忘れられるほど人間を捨ててなんかいない。忘れられないに決まってる。だからこそ、いつかリンクのことを思い出して笑えるようになるまで、こういうものは必要なのだ

金魚の水槽は相変わらず誰もいなかったけれど、それも思い出


「水、公園に行こうか」

「わんっ」

「あそこでするピクニックは最高だからね」


アルバムを開いて、水に話しかける

0歳から9歳までのリンク写真がびっしりと貼られていた。私のアルバムもこんな感じで作られていたっけ。やっぱりアルバムをちゃんと作る家庭はみんな一緒なんだなぁ

ペラペラとページをめくりながら、ところどころに私とリンクが一緒に写っている写真を見つけては涙を堪えた

あぁ、私は確かにちゃんと歳をとっていっていた

今に比べてシワだって少なからずはあった。リンクだって順調に育って行っていた。時間は戻ってしまったけれど、それだけは揺るがない事実だ



「本当は、ねぇ」



まぁそんな事実があったところで、私はもうリンクとは会えないのだけれど。最後にさよならっていえたらよかった。またねって、笑いあえばよかったのに、笑顔はきっとよりリンクを苦しませていたのだろう

でもあそこで笑っていなければ、私はきっとリンクを手放すことなど出来ていなかった

見送ろうって思ったときに見送らなければいけない。どれだけあやふやなものだったとしても手放すという選択肢が出てきたその瞬間こそ、チャンスだったのだから

リンクが私に縋りつくように、私だってリンクに縋りついていたのだから

子供に求める母親への愛情と、母親に求める子供への愛情。私はどちらも知っている。泣き叫ぶリンクの声だって覚えているし、今でもその声は夢に出てきては私を寝不足へと突き落としていた

でも迷惑だとか、そういったことはない

これもいずれは消えてしまうのだと思えば、今は夢でもリンクの声が届いているのだから、むしろいい方向にとらえるべきだと私は思っている


「これ、燃やしちゃうべきなのよね」


そんなこと出来ないけれど。


リンクの写真が貼られたアルバムに、ひとつ、またひとつと涙が零れ落ちた


「お願い・・・・・女神様・・・・!リンクが怖い思いをしないように、リンクが倒れてしまわないように、どうか、どうか」


あの子を見守っていてあげてください


リンクが必死に叫んだように、私は必死でリンクの安否を願った

心配も不安も悲しみも寂しさも辛さも苦しさも全部全部リンクが私にくれたもので、幸せも楽しさも嬉しさも安心も笑顔もいろんなこと全部、リンクが残していったものなの

私がリンクの感情を掬っていいものに変えて返せたものがあれば、それだけ、私は救われる


「・・・・・・ごめん、ありがとう、リンク」


3DSが僅かに震えていた

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