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そんなわけないじゃない、
そんなこと、絶対に、空から槍が降ったってありえないじゃない
「僕はお母さんと形も、色も違うから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「嫌われたら仕方がないって思ったんだけど、でも僕、やっぱりお母さんに会いたくて、お母さんに忘れてほしくなんかなくて」
どういう心情がそういった暗い夢を映し出しているのかはよくわからない。リンク自身もこれまで私に不満などなかったと言っている
ならばこれは私の中で考えうる限りのものだが、きっとその夢は伏線ではないだろうか
リンクが旅に出るのは丁度、この頃だから。リンクの体は感じ取ってしまっているのだ。もうすぐここからいなくなってしまうということをわかってしまっているのだ
「僕が朝起きたら、お母さんが出て行くところだったから、もう僕何がなんだかわからなくて・・・・」
違う。違うわリンク。
ここから居なくなるのは貴方のほう。その置いていかれて悲しいっていう気持ちはきっと、これからハイラルに出たときに感じるものと全く一緒のものなのかもしれない。泣き叫ぶほどの重いものがリンクに圧し掛かってくるっていう未来余地なのかもしれない
子供には辛いだろうねって、毎日見るなんて可哀想にっていえればそれで気は済んだかもしれないのに、何故かそういう言葉だけはいえなかった。その辛さを私も味わうからだ。大人でも辛いと思ってしまうからだった
泣いている私は情けないかもしれないし、強くもないかもしれないけれど、
少しでもリンクの夢が軽くなるようにはしてあげられるかもしれないね
「ごめんね、リンク」
「なんで謝ってるの」
「大丈夫よ。リンクを置いていったりなんか絶対にしないから。不安なら約束しよう」
「約束?・・・・・・・・・・・・本当に、守ってくれるの?」
「あぁ。必ずリンクを独りにしないって、約束するよ」
あちらに帰ってしまえば誰もリンクを支えてくれる人間なんかいない。旅をするのは相棒であるナビィとだけ。時を越えてまでハイラルを救わなければいけない彼にとって、身近にいる人間など一人もいなくなってしまうのだろう
思い出せば支えになるだなんてそんなの人間になんかできっこない。ただ、リンクが私を思い出して、想ってくれる人がいるのだということだけを確認してもらえたら、それだけでリンクも私も大分違う気がした
「これから辛いこといっぱいあるかもしれないけれど、リンクが思ってる以上にリンクの周りは明るい場所だから、大切なことを見失っちゃ駄目だよ」
「うん」
「お母さんがリンクのこと必ず大切に思ってるってことも、どんなに惑わされたって忘れないで」
不幸せって言葉を知ってるよね、リンク
あれはリンクみたいな人のことを言うんじゃないのよ。そういうのは人からもらった幸せを感じて生きていけない人間のことを言うの
リンクが今幸せな生活をしてるかどうかなんて私にはわからないけれど、少なくともリンクと一緒に暮らしていけている今、私はこの上なく幸せで、涙が出てしまうくらい最後には感動を迎えると思う
怖い夢を見ているのならば、それを消すための道へ。
「リンクは、私が出て行くときに、何を願った?」
「願う?」
「強く思ったことよ」
「それは・・・・・・・・・・・・・僕、は・・・何もないのは嫌だから、ひとつだけでもいいから、」
お母さんを思い出せるようなものが欲しいって、思った
私はいつもつけていたネックレスを、リンクの小さな小さな手に握りこませた。久しぶりにこんなに泣いたかもしれない。息が詰まって肺がうまく空気を取り込んでくれないまま、頭まで痛くなってくる。それでもそれは私がリンクを何よりも愛している証拠だった
「お母さんのこと、忘れないで」
リンクにとっては場合によって忘れたほうがいい存在かもしれないけれど、でも、我侭っていうのはよくわかってるから、神様
リンクをこの世界につなぎとめるなんてことは望まないから、それだけは、妥協してほしいのだ
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