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「話になりません。常識すらなってない。何度も言いますけどリンクは私の子です。絶 対 に 渡しません」
そういえば先輩は顔をくしゃりと歪めた。あくまで化粧で固めたせっかくの綺麗な顔が台無しだ
私は先輩とかれこれ30分は同じようなやり取りをしていた。渡す渡さない以前に常識も人間も出来ていないという話から、子供のことまで全部説得しているというのに先輩はまさに聞く耳持たず状態だった。この人は子供をペット以下のおもちゃとしか見ていない。まだ僅かしか話していない先輩のことだったが、それだけはすぐにわかってしまった
30分もすれば仲良くなったのか、リンクと女の子は笑顔で積み木をしている
この人もあの女の子みたいに30分や15分で言う事を理解してくれないだろうか。これならよっぽど子供のほうが理解力はあると思う。リンクだって物を壊しちゃ駄目、こうなるのよと言い聞かせればそれをちゃんと理解することだって出来るというのに。3歳児でさえ立派には出来ないけれど、不器用ながらも親の言う事は聞けるというのに
この人と来たら、子供子供子供子供うるさいったらない
そんなに美人な子が産みたいのならイケメンの旦那をつくればいいじゃないか。それが出来ないのはあんたの顔と性格の問題だろう。男を落とすテクニックなんか関係ないのだから。ようは性格と顔さえ良ければ男なんて五万と寄ってくる
私はそんなことないけれど
まぁイケメンを捕まえたところで先輩の顔が元は駄目だろうから、先輩に似てしまえばそこで子供の顔は諦めたほうがいいだろう
「リンクだって先輩が言ってるほど大人しくて偉い子じゃないんです。子供らしく騒ぐし子供らしく我侭だって多いしそれ聞かなかったら泣き喚くし、家に居るときは四六時中親にべったりしてないと寂しいと思うお年頃なんです。どうしてそれをわかってくれないんですか?娘さんだってそうだったでしょう?」
「うるさいわね!いいからさっさと交換しなさいよ!」
「駄目です。リンクは渡しません。誰が我が子を喜んで他人に差し上げるっていうんですか。その前に子供のことを一から学んで、それから命の大切さっていうのも一度年少さんあたりからやり直して学びなおすといいですよ」
ペットをおもちゃ扱いする世の中、子供までもがおもちゃと化するのか。まったくもって遺憾である
きっとこの人は泥だらけになった子供の服だって嫌々洗うか、最悪子供に洗わせたり、食事だってまともなものをあげてはいないのだろう。インスタント中心とか。
私がキッと睨みつければ、先輩は吹っ切れたように笑顔に戻る
「大体、子供なんて施設に預けてたに決まってるでしょ!?そのおかげであの子のしつけはいい感じに出来てると思うわよ。リンク君がそれだけわがままで困ってるのなら、あの子と交換できるっていうのはチャンスでしょ?」
「・・・・・・・・」
絶句した。何でって、施設に預けてたって言葉に。
しかもしつけがいい感じに出来るんだと。こりゃあもう母親には一生なれない女だとお手上げ状態だった。ため息しか出せない。なんともいえないやりきれない呆れが私の心をぐるぐる渦巻いて、自然と私はため息を吐いていた
「あのですね・・・・・別にリンクがわがままで困ってるなんて言ってないですよね」
「でもわがまま言われたら困るのは当たり前でしょ?」
「困らないわがままだってあるんですよ。わかってくださいお願いですから。我侭を言っていてそれをどう丸め込むかとか、どういったものを了承するかとか、そういったことが子供の成長を手助けするものでもあるんですから・・・困ったことなんてないですよ。酷いわがままはちゃんと駄目って言って聞かせてます」
それ以前に、自分の子供の顔に酷く満足できなくて嫌いになって施設に預けるような人間に、どうしてリンクを渡せると思うのだろう。遺伝子レベルで人間やり直せババァといいたいほどである
むしろ土に還れ。そのままもう転生することなく完全に消滅してしまえ
そう思うくらいには先輩という人間が嫌いになってしまっていた
「しつけがいい感じに出来るってわかってるならその子をちゃんと大切にしてくださいませんかねぇ。リンクは夫との子なんで無理です」
「じゃあ!じゃあその、あんたの旦那でもいいわ!私に頂戴!夫に似ればあんなふうに綺麗な子が産まれるんでしょ?」
「残念ながら私の夫は死んでるんで」
会いたいならくたばってくれ。ちなみに上に逝っても私の夫なんていう人間は存在していないので、そこらへんはあしからず
昼休みを無駄にした気分で先輩を振り切り、リンクの元へと行くと、リンクが顔をあげて笑顔で積み木を見せてくれた
「みてみて!おうち!」
「本当だ!すごいねリンク」
「うん。あんね、あのね、このおうちでままといっしょにくらすんだ!」
「へぇ〜リンク、ありがとうね」
無邪気に笑うリンクを抱きしめてお礼を言えば、リンクは最近言うようになった「どういたしまして」をお返しで言ってくれた。自然と頬が緩んで抱きしめる力を強くする
女の子にも笑いかけて、私はリンクを抱き上げた
「おいで。喉が渇いてるだろうから、一緒にジュースでも飲もう?」
女の子はこんなことも言われたことがないのだろう。戸惑ってはいたが、溢れる嬉しさには勝てなかったのか破顔した
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