03
緑の青年はリンクと名乗った。リンクもまた耳が尖っていて長く、金髪に青い目をしていてとてもじゃないが当たり前に日本人だとは思えない。それでも何故か言葉は通じた。文字は読めないのに、言葉だけは理解できた
だから色々な話をしてもらった。この街のことや人々のこと、食べ物、生活、服装、生き物。知りたいと思ったことはなんでも彼の口から教えてもらった。
ここは私の世界ではない
それは昨日やっと理解したことで、でもそうなれば私には生きる術も何もないというのが現状だった。だから手を差し伸べてくれたリンクにはとても感謝している。もしあそこで誰も話しかけて助けてくれなかったらと思うと恐ろしくてしょうがない
昨日は宿屋に泊まって、お金(ここでは円ではなくルピーというらしい)を払ってもらったので申し訳程度にお礼をと、晩御飯は簡単なものを作らせてもらった。そろそろ食べなければやばくなると言っていた鶏肉をもらって皮を剥ぐと、そのまま野菜と一緒にスープにして、残りの肉は一口サイズに切って、ブスブスとフォークで肉に穴をあけてから酒と塩を入れたビニールに突っ込んだ。そのまま放置したら柔らかくなるので、あとはまぁ色々とつくった
リンクは喜んでいたし、美味しいとも言ってくれていたので腕を振るった甲斐があった
聞けばちゃんとした料理を口にしたのは久しぶりだという。ざっと一年前ぐらいじゃないかな?と首をかしげていた彼に、私は思わずギョッとしたことを思い出した
いや、一年前て。一年って何ヶ月あるか知ってる?12ヶ月だよ!
適当な具も少ないスープとパンを少々食べて暮らしていたのだというのだから、もう驚きだ。だったらその筋肉はどこでつくられたんだと問いたくなるぐらいだった。ちなみにおもちには青野菜とパンをあげた。リンクに植物の種がどこかにないかも聞かなければ
拝啓母上様へ。あなたの可愛いかわいい娘は案外逞しく生きようとしています。生きようとしているだけで、これからどうなるかはまだわかりません。とりあえずこの世界に迎えに来てはくれないだろうか。家に帰りたい。
まぁ無理なんだけども。むん、そんなのわかってるよ・・・・
「この扉を出て、少し歩けば森に出るから」
「森かぁ。森なんて大分久しぶりだよ」
「?どのくらい?」
「もう5年は行ってないかなー。行っても山とか川とかだったから」
懐かしい。喧嘩してしまった兄弟とターザンのように縄をつかって川に飛び込んでいた記憶がじんわりと蘇ってくる。あぁ楽しかったなぁ。あれは去年かぁ。てことは今年は私抜きで皆で川行くんだろうか
温かい気持ちになりはじめたが、飛び込んだときに下にあった大きな岩に足をぶつけてしまった痛みを思い出して、瞬時にその気持ちは冷めてしまった
あれは痛かった・・・・・なんで水綺麗に透き通ってるのに下見てなかったんだろう私・・・・・・
「珍しいね」
「うん?いや、割と私の世界ではこんな感じだったよ。森は危ないからって親だって遊びには行かせなかっただろうしね」
それでも森で遊んでいた私はきっと遊び盛りだったんだ。きっとそう。そうに違いない。
「リンクはその言い方だと、森にはよく行くみたいだね」
「うん。元々僕森に住んでたし」
「・・・・・・・はっ、え?・・・森に住んでた!?」
「大木に穴開けて家つくって暮らしてたんだ」
何故そんな小動物がするようなことを。可愛いな。一回そんな家見てみたいよ
そこまで言おうとして私はリンクの顔を見る。リンクはどこか遠くを見ているのか、こちらに目を向ける気配はなかった
美形だなぁ。
イケメンってこういう人のこと言うんじゃないかなぁ。アイドルやモデル雑誌を見てはカッコいいだのイケメンだの、ポーシングを決めた男に対して言っていた妹が馬鹿みたいではないか(あまり興味のなかった私でさえも、確かに雑誌にのっていたアイドルとやらはイケメンに見えたのだが、)
地で私の世界のイケメンを踏みにじるリンクは、どこから見たって綺麗だった
歩きながらじっとリンクの横顔を見ていると、リンクがふと、こちらに振り向く。ハッとして視線を逸らしたが、リンクは気にせず口を開いた
「僕はさ、森で、コキリ族っていう人達と暮らしてた」
「コキリ?」
「そう。皆いい人で楽しかったよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・?
「あの、さ。それだとなんだか・・・・・・リンクは、違うように聞こえるんだけど、」
「そうだよ」
「リンクは何人?ていうか・・・・・うん?そもそもこの世界じゃ私は何人になるんだ?宇宙人?」
やだっ。私人間卒業する予定もした覚えもないわよやめてよね!
「・・・・・ムメイは面白いなぁ」
「え?・・・・あ、ありがとう・・・?」
「僕達のことはハイリア人っていうんだ。他にはゾーラ族やゴロン族なんかがいるんだけど、そうだな。普通の人間の形をしてるのがハイリア人。耳が長くて尖ってるやつね。ゲルド族はちょっと似てるけど、耳が少し短め」
「ちょっ、ちょい待ち。メモとるから!」
世界の常識ぐらいは知らないとやばいから!つーか普通の人間の形してないやつなんているの?怖っ、何それ怖すぎる!