花は君に根をはる | ナノ
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たった数ヶ月で他人のことで悩めるほど余裕ができるなんて私でさえ思っていなかったさ。えぇそりゃあ人間の適応力ってやつぁ凄いもんだってことくらいわかってたけれども。これはないよ。世界丸々変わってんのにマジで自分が怖いよ

もはや頭の中はリンクのことでいっぱい一杯だった。ダークに王女様に会えばいいだろ俺はやめといたほうがいいと思うけどみたいなことを言われて、まぁ確かに私もあまり会いに行くのはやめておいたほうがいいのかもしれないと思うのだ。まだ王女様が王女ってこと以外何もわかっていないのだから。

あとリンクが大好き。

とりあえずダークと知り合って早二ヶ月。最近ちらちらと私たちにあまりよくない影が見え隠れしていた。スパイか、はたまたアサシンか。狙われるならばもちろんこの私だろう。殺される理由はわからずとも怪しい女としてハイラルには広まっていたのだ。兵士のときのように捕らえられるかもしれないし、そこらへんはまだわからないのだが


「あの、リンク」

「何」

「なんでそんなピリピリしてんの」

「さっき宿の天井から目が見えたから」

「ひぃっ、目!まさかの目!?」

「監視してたみたい。目が使えなくなったんじゃあここにいる意味なんてないだろうけど」

「・・・・・・・・・・・・・まさかそんな。リンクでもそんな非情なことは・・・」

「大丈夫。ちょっと矢がクリーンヒットしたかもしれないけど、潰したの片目だけだから」

「あーもうそれ全然大丈夫じゃないね!片目だけでも潰したリンクが怖いね!」


ただ監視されていたという事実も怖い。今はリンクが傍にいるから良いものを、一人のときに監視されていたとして私が気づくのかと訊かれればそりゃあ即首を左右に振るだろう。私は長年魔物相手をしてきたわけでもないし、魔物だらけの平原で野宿してきたわけでもないし、戦ったことがあるわけでもない。気配なんて読めるかちきしょう


「今はいないの?」

「いないと思うけど・・・・・怪しいから気をつけないと」


いや、まぁね?守られてるって思うと少し癪だけど私には何も出来ないわけだし、それに私だってお城に強制連行とかされたくないわけだよ。私たちを監視してるのって王女様が用意したスパイやら忍者的なやつだろうからね。檻にはまだいれられたくないわけだよ

でも私以上にリンクが警戒してるっていうのは、結構というか完璧に意外だった。仲間とは言っても所詮私は旅のお荷物である。出来ることといえば火熾しとか料理だけだからさ。だったらリンク的にも私は攫われたってなんら問題はないと思うんだよね。でもちょおっと私がいなくなった時に寂しいって思ってくれたらそれだけでも私は嬉しい

リンクは私の中では大切な人に分類される人間だから、そんな人から必要とされたいのは当たり前だ


「さすがだね。やっぱり普通の人とは違うよ。ただ少しくらいは気抜いてね?」

「?なんで?」

「眠れなくなったりしたら困るからだよ。睡眠は大切でしょ。リンクはただでさえよく動くんだから寝ないと疲労が半端ないと思うし」

「心配してくれるんだ」

「だからしないわけがないでしょーに・・・・大体、私のためだかなんだか知らないけど、体力を削る必要はないよ」


リンクは静かに、瞳だけをこちらにむける。

そもそもの話が私のせいでリンクの体力を削ること自体おかしいのであって、何も無理して守られなくとも別にいいのだ。死んだら元の世界に帰れるっていう考えもあるし、いや死にたくはないけど、でも捕まったところでまだ殺されるかもわかってはいない。殺されるとしてもリンクには関係ない

そう言えばリンクは黙った。何も喋ってはくれなかった。その日はいつもどおり時間が過ぎていったけれど、言葉は一方的に私がかけるだけでリンクは上の空だった。


▲▽


「僕考えたんだけど」

「(あ、昨日はずっと考えてたんだ・・・・・)」

「ムメイの死に関与したら駄目?」


はい?

リンクの言葉に意味がわからなくて首をかしげたが、そういえば昨日私が死のうが殺されようが関係ないと言った記憶がある。あれ繋がりだろうか。今思えば結構冷たいこと言ってたんだなぁ自分

昨日を思い返しながら傾げていた首を元に戻すと、私は口を開く。


「それは・・・・・詳しくはわからないけど、私がリンクに死んでも関係ないって言ったことを気にしてるの?」

「そう。この際だから僕ハッキリいうけど、ムメイはムメイが思ってる以上に僕にとって必要なんだ。君に死なれたら困るって言ったら、どうする?」


私は絶句した。否、瞬時に言葉を理解することが出来なかった

出来ていたとしても戸惑うことぐらいしか私の成す術はなかっただろう。目を見開いて驚愕に表情を染める私を見ては、リンクは真剣な雰囲気をよりいっそう強くする


「いつも思ってた。ムメイってば優しいけど少し、自分勝手に考えるところがあるよね。君が死んでも僕はなんとも思わないなんて思ってた?冗談やめてよ。ムメイが僕ナシで生きられたとしてもその逆はわからないだろ?僕はムメイがいないと生きていけないよ。だって、僕は、」

「・・・・・・リンク」

「僕は最初にムメイを元の世界に帰すって約束してるんだ。それを果たすまで僕はムメイと一緒に旅をしたい。僕は大切な人が突然いなくなる寂しさをよく知ってる。この世界に忘れ去られたときの恐怖と絶望も知ってる。仲が良かった人が突然他人になる悲しさもよくわかってるんだ。ムメイに忘れられたりなんてしたら僕は、それこそ本当に、今以上に駄目になってしまう」


ねぇ、お願い。わかってください。

君が僕をなんとも思っていなかったとしても、命の恩人だとしか思っていなくとも、僕はこんなにも君が必要なんだ。ナビィみたいに離れるようなことはしないでよ。どうせ帰って来なくなるんでしょ。死んでもいいなんて言わないでくれ。関係なくなんてないんだ。

情けない男だって笑われたって僕はこれ以上大切なものをなくしてしまったら、立ってはいられないだろうから