花は君に根をはる | ナノ
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「お前は何にも知らないんだな」

「え?何が?」

「全部だ」


ダークに意味もなく魚を渡すと湖に投げ捨てられた。まるで流れるような作業。あー!せっかく釣った魚なのに!

生臭ぇと眉間にシワを寄せながら言うダークに、どんどん泳いで遠くへ行ってしまう魚の影を目で追いながら口を開く


「全部?この世界のことは見たことないものばかりだけど、一応知識程度なら少しあるよ」

「違う」

「違う?えー・・・・・じゃあ、何を私が知らないって言いたいの?」

「全部だ」

「それさっきも言ったじゃん」


魚がたくさん集まってる場所を探してくると湖を一周しているリンクに助けを求めたくなった。わからん。いまいち君の影さんは不思議な魔物だよ!理解力も鋭くもない私がこんな人と話しなんて出来ると思ったら大間違いだ

強いて言うならリンクやダークや魔物の存在、そこらへんはどういった存在なのか、どうして存在しているのかなんてわからないけれど。リンクは普通に生まれてきたんだろうけど、魔王がリンクを元にダークを作り出したというのならばリンクは魔王とは少なからず関係があるのだろう。そもそもどうして魔王は誕生したんだ。世界征服か。そんなの子供でも夢見ねぇよ


「知らないといえばダークやリンクのことは知らないよ。ゼルダって王女様のことも魔王のこともさ。世界観はわかっても、周りの人のことなんてよっぽどのことがない限り知る機会はないだろうからね」

「そうだろうな」

「疑問はたくさんあるけど、でもそれを解消したところで私が元の世界に戻れるわけじゃないし」

「あぁ」

「だったら何も知らないままでも別に問題はないんじゃないかって思うんだよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「魔物っていう点で言えば、どうしてダークは私を斬ろうとしないの?」


不思議だった。いくら心があるからといって、ダークが私に斬りかからないとは限らない。私はただの人間だ。剣士でもなければこの世界の人間ですらない。戦うことなど出来ないし殺すのならば簡単なことだろう

リンクが私を仲間だと連れてきたからといって、どうにもダークが大人しくしている理由には思えなかった。今まで見てきた襲い掛かってくる魔物のイメージが、私の中で定着してしまっていた

しかし私の質問にダークはなんでもないといった風に答える


「俺はリンクを殺すために生まれた魔物だ。それ以外のやつに興味なんてねぇ」

「それにしては仲良さそうだけど・・・・」

「吐き気がするやめろ」

「いやそこまで嫌わなくてもよくない?」


リンクはいい人だよ!

おもちの頭を撫でながらダークを見れば、ダークはどこか遠くを見ていた。見れば見るほどリンクとは真反対の色をしているなぁとしみじみ思う。赤と青。黒と白。そういえばリンクは日焼けとかしない体質なんだろうか?タイツ履いてたりするからなぁ・・・・でも顔とか手とか焼けてないから、元々焼けない体質なんだろうな。リンクの肌美白だし

やっと魚がヒットしたのを確認して竿を持ち上げた。魚が暴れてバシャバシャと水が跳ね回る


「だが、お前には興味を持たずにはいられないだろうな」

「私?」

「少なくともリンクの仲間である以上、影の俺とは関わりが出来る。あいつが自分から“仲間”だと言って連れてきたやつはお前で二人目だからな」

「それは・・・・・珍しいね。リンクなら仲間くらいたくさん居そうなもんだけど」

「だからこそこれから何かが起こるんだろ」


嫌な前兆だ。確実に何かが起こること間違いなしだろう。

この女が只者じゃないことはリンクを見ていればよくわかる。この世界にとって、人間としてはそこらの一般人と変わりはないだろうが、リンクからの認識はどうやらただの仲間ではすまされないらしい。ダークは面倒くさいことに巻き込まれてるもんだと、ため息を吐いた。

ゼルダとやらがどうやって俺の情報を掴んだのかは知れないが、顔は見たくないもんだ。あいつは仮にも魔王を封印して閉じ込められるほどの能力を持った人間。魔物相手に怯むことなど絶対にしないだろう。俺だって魔物なのだから、些かゼルダとは相性が悪い

光の矢なんて撃たれればそれこそ大ダメージ。当たらなければいい話だが。


「ねぇ、ダーク」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「私が何も知らないってわかってるなら、少し教えてくれないかな」

「・・・・なんだ」

「どうしてダークは、リンクを殺すために生まれたの?何もそんな理由だけで生まれなくたってよかったのに」

「それは俺が消え去ってしまえばいいという遠回しの死ね発言か」

「違う違う!そうじゃなくって!・・・・・ほら、なんていうか。魔王がなんでダークをつくったんだろうって思ってさ。リンクがどうして殺されなきゃいけないのかなって、ふと思ってね」

「あいつは何もしていない」

「知ってるよ」

「知ってるんじゃない。わかってるんだろ」

「うん」

「俺はこう命令されていた。生まれたときに初めて聞いた言葉も、毎日の如く言われ続けていた言葉もこうだ」


“時の勇者を殺せ”


「結局俺も何もすることが出来ないままだ。俺は元々世界になんて関係ねぇからな。だがあいつは違う」

「・・・・・・ダーク」

「あいつがどうして蛾みてぇな妖精を失ったか、なんであいつの表情があまり変わらないのか、なんであいつが色んな人間と深く関係を持ちたがらないのか」


ゼルダの影が俺たちにちらついているからそいつが気になってるんだろ

どうしても自分の周りは只者ではないものばかりだと感じ取ってしまっていることだろう。

教えてやろう。まだ何も知らないお前に


「全てはあの王女が知ってる。全てあの王女の引き金だ。全部あの王女が撒いた種。お前がもしどうしても気になって仕方がないというのなら、ゼルダとやらに会ってみるといい。まぁ俺は勧めないがな」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・リンクは、」


勇者、なの。

ただ呆然とそう呟く彼女は、もう跳ねることすらしなくなった魚を見つめては、それをダークに手渡した。


「情報ありがとう。これお礼」

「死んだ魚がお礼とはな。お前はまず常識を学んだらどうだ」

「えぇ!?この魚馬鹿にしちゃいけないよ!美味しいんだよ?あっ、ダークも今日晩御飯一緒に食べよう!ってあー!!」


ダークは魚をまたもや湖に投げ捨てた。酷い。酷過ぎる!


「・・・・死んだ魚を渡すお前も大概ひでぇことに気づけよ」

「美味しいのに!全く、食べ物は粗末にしちゃいけませんって習わなかったの!?魔王の教育はどうなってるんだ全く!」

「まだ食べ物にすらなってねぇぞ魚。俺は粗末になんてしてねぇ」

「そうかもしれないけど・・・・・・・・・そもそもダークは何か食べてるの?ずっとここに居ちゃ食べるものあんまりないよね?」

「最近は食べてねぇな」

「どのくらい?」

「二年前ぐらいから何も食ってねぇ」

「それは最近とは言わないね。昔レベルで食べてないよね!」


駄目駄目そんなんだからたまに体の色素が薄くなって透けるんだよ!

これは能力だ体質だといってもこの女はきかなかった。とりあえず魚を釣る前にこいつはバケツか何かを用意すべきだと思う