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「ちょ、ちょい待ち!」
「え?何?」
「いや何?じゃなくて。明らかにもうそいつ死んでるじゃん!」
何めった刺しにしてんの!?容赦ないな本当!いや魔物に容赦するほうがどうかしてるのかもしれないけど
リーデットという魔物をこれでもかと言うほどバラバラにしているリンクに、私は戸惑いながらもストップをかけた。死体が消滅するまでに多少時間のあるリーデットだが、そのせいでまさかこんなにもグッサグッサとやられるとは思いもしなかっただろう。確かにリーデットは厄介な魔物だけれども。気持ち悪いしなんかカビの臭いとか腐った臭いとか色々するけれども。何もそこまでしなくてもいいじゃないか
見ててリーデットが可哀想になるくらいの光景に私は目を逸らす。
「こいつはこれくらいしないと死なないから・・・・」
「前は心臓ぶっ刺して首はねて終わったじゃない!」
「それはそれ、これはこれ。ね?」
「ね?じゃないよ!怖いよ!もう、早くこんな穴出よう?」
たまたま見つけた隠し穴に落ちてみたらリーデット。本当にこいつらはどこにでもいるなぁと消滅したリーデットを思い出す。気持ち悪い。
たぶん人が目の前で死ぬ光景よりも今の光景は気持ちが悪いものだと思う。いや気分が悪いとかそういうんじゃなくて、単純に気持ち悪い。きもい。なんで魔物ってこんなに気持ち悪いの。エイリアンみたいな感じをイメージして魔王は魔物作ってたの?やめてよね!もっとピカチュウみたいな、可愛いやつにしてよ!
それだと魔物退治するときにもっと心を痛めることになるだろうけど
「あんまりにも騒ぎすぎてお腹空いて来ちゃったじゃない」
「ムメイのお腹大丈夫?たった今リーデット見たばっかりだけど」
「気持ち悪いもの見たってお腹ぐらい空くよ。食欲があるのかって聞かれたらそのときによるだろうけどさ」
「今は?」
「何か食べたい」
「ムメイのお腹はやっぱり終わってるよ・・・・何かが」
「そこまで言うか・・・・」
でも仕方ないじゃん。私食事中にトイレの話とかされたって平気なタイプなんだからさ。あ、さすがにムカデの話とかはちょっと食欲に響くけれども。あれやばいよね。足何本あるんだろう?ダンゴムシと同じぐらい?
花壇の近くに座り込んでいてムカデが頭の上に上ってきたときのことを思い出してしまった。体中に虫唾が走ってぞわぞわする。なんでこんなときだけムカデの感触まで思い出しちゃうかなあ!あれ普通にちょっと硬かったよ!手で掴んだらぐねぐね曲がるし!ムカデ触ったの給食の前だし!
少したってもぞわぞわする気持ち悪さに顔を顰めていると、リンクがふと、こちらに振り返る
「そういえばムメイはハイリア湖に行ったことないんだっけ」
「はいりあこ?湖?」
「うん。あそこは魚がたくさんいて釣りも出来るから、行ってみる?綺麗だよ」
そうか。リンクが綺麗だというのならばそうなのだろう。
いまいち私の頭にある湖は綺麗とは呼べないものだからか、想像がつきにくい。アニメで見るようなやつ?前テレビで外国の湖が綺麗だの自然遺産の湖がどうだの言っていた気がするが、どうなんだろう
私は一つ頷いてリンクを見た。リンクは「あと、会わせたい人がいるんだ」と綺麗な笑みを浮かべる。私はそれに「へぇ」と呟きながらも空を見た。そろそろ日が暮れる頃だろうか。焚き火を焚かなければ。
リンクもそれに気がついたのか立ち止まって、荷物を降ろす。木の下で野宿することにした。
「なんだか最近寒くなってきてるねぇ」
「もうすぐ冬だからね。・・・・・寒い?」
「いや、そこまではないんだけど・・・・おもちが心配かなぁ」
そろそろ羽を膨らませて寒そうにしている姿が見え始める頃だろう。鳥は暖かいところに基本住んでるから、寒さに弱いことを知っている私としては毎晩ハラハラしっぱなしになる。
朝とか怖いよね。鳥ってばコロッと死んじゃうから。
「フライトスーツみたいなやつは駄目?」
「あ、それいいかもしれない」
「ハイリア湖に行ったあと、どこかの村で布買わなきゃね」
心配する気持ちはわかるよ。怖いのも。ナビィがそうだったからさ
リンクが思いを馳せるナビィちゃんは、一体どんな子なんだろうか。可愛いのかなぁ。最近結構気になっちゃって仕方がない
私とおもちを見ているとナビィちゃんを思い出すということは、それだけ私とおもちは仲が良さそうに見えるのだろう。実際に仲はいいしおもちは懐いてくれてるけど、でもそうなると怖いのは別れるときだ。
リンクがナビィちゃんと離れ離れになってしまったように、私もそうなるときが来るのである
一番最初に初めてリンクの目を見たとき、何かを諦めたような絶望したような色が見えた。それと同じ瞳が私たちにも向けられている。ただ、少し違うのは、あの時よりも幾分かマシになっていることだろうか
リンクは少しだけ明るくなった気がする。それも気のせいなのかはよくわからない。ただ、何かが変わっていることは確かだった
「ねぇ、」
ナビィちゃん、リンクのこと待ってるよ。だって相棒がいないのは寂しいもの
「リンクについてた妖精なら、相当いい子だと思うからさ。リンクのこと忘れるなんて絶対にないから」
今までだってこれからだって、相棒がナビィちゃんだっていうことは変わらないでしょ
寂しそうに顔を俯かせたリンクはどうしてか、苦しそうな顔をして私に「僕のことは忘れないで」と言った。首を傾げながらもこんな緑色の服着たイケメンを忘れることが果たして出来るだろうかと、命の恩人を忘れることなど私には出来ないと、首を縦に振った
(忘れないと頷いた彼女は嘘をついているわけでもなんでもなさそうだった。僕はその反応にどうしても安心することが出来なくて、ムメイに近づこうとすればするほど不安が大きくなってしまう。女々しいことこの上ない。いつか皆みたいに、僕のことを忘れてしまうんじゃないかって、頭痛くなるぐらい考えてしまってしょうがないのだ。いっそのこと絶対に彼女を手放さないと決意してしまえばいいのに、それが出来ないのはきっと、彼女があまりにも程よい距離を保って優しく声をかけてくれるからだろう。駄目になる。これ以上は駄目だ。これ以上は進まないほうがいいんだ。)でも、帰る場所が欲しい