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旅で着る、できるだけ軽い服を作って欲しいと店主に頼めば、店主の奥さんであろうおばあさんが笑顔でいくつか服にするための布を持ってきた。生地はどれがいいのかわからなかったのでリンクに選んでもらって、色は自分の好きなものにする
無難な黒がよかったのだが、この世界の人達ってば黒は好んで着ないのか皆薄い赤とか青とかばっかなんだよね。だから悪目立ちするようなものは避けて、青の生地で服をつくってもらうことに。デザインはお任せした
おばあさんが服を作ってるその間に、グローブとブーツを買うことにしてまた街へくりだす。
ちらりとリンクを見るとバチッと視線があった
「あの、さ。訊きたいことがあるんだけど・・・・」
「さっきのこと?」
「あ、うん。どうしてリンクは、その・・・・・兵士さん達にあんまりよく思われてないのかなって」
リンクが嫌いではなくむしろ好きな部類にはいる私は、そんな兵士たちをよく思ってはいない。どれだけ兵士がリンクの何かしらの問題行動を咎めていたとしても、それを私に説明されたとしてもきっと私はリンクを疑うことなどしないだろう。それは私が単純なやつで人を疑うようなことをあまりしない性格だからかもしれないけれど、でもリンクという人間が問題を起こしてまで王女を傷つけたりすることなど、何か理由がないと絶対にしないと思うのだ
時のオカリナという単語も出てきていた。あれはどういう意味なんだろう。いやリンクが喋りたくないことだったら無理して訊いたりは全然しないんだけどさ
リンクは顎に手を当ててふむ、と考える仕草をする
「ゼルダが勝手に傷ついてるからだろ。ゼルダが大好きなあいつらには僕が憎々しい存在にでも見えるんだろうね。僕にはいまいちなんでゼルダが僕のせいで悲しんでるのかがわかってないし」
「そっか・・・・・。?あれ、そのゼルダ・・・・王女様がリンクに手紙を出してたんだよね?」
「うん」
「騎士になれって」
「そうそう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・いや、リンク。それはさぁ・・・・女の勘ってやつだけど」
「僕のことをゼルダが好き?」
「そうそ、ってなんだ。わかってるじゃん!」
自覚してるじゃん。それくらいしか私は思いつかないぞ
リンクはどうしてか苦々しい顔をして言っていたけれど、でも王女様に好かれるのならリンクも幸せ者なんじゃないかなぁ。リンクが他に好きな女の人がいるっていうならまた、話は別になるんだけども
おもちが首をかしげながらリンクを見ていたので、それを真似て私も首を傾げる。一体何が不満なんだろう。玉の輿って、こういうことを言うんじゃないの。嬉しいことじゃない?
いまいちリンクの考えていることがわからない私は、幾分か身長の高いリンクを見上げた
「わかってるなら、会うだけでもすればいいんじゃないかな。王女様が別に好きじゃないのならそうやって伝えるとかさ」
「それをしてもゼルダは諦めないんだ。ずるずるずるずる引きずって、僕に手紙をずっと送り続けてくる」
「う、うわぁ・・・・・・まじか・・・・」
乙女ってすげぇ。
「それにさ」
王女様の凄い根性と女々しさに若干引いていると、リンクが私を見下ろした。
とても綺麗なスカイブルーの瞳が、一瞬だけ揺れ動く。しかし表情は至って無表情で、けれどそこには真剣な雰囲気が混じっていた
「今はムメイと旅をするのが楽しい。ゼルダに会いに行く暇なんて僕にはないんだ。会いたくない。ムメイと旅をするのに忙しいから」
わざわざ僕が城に出向いてやる義理もなければ、楽しい旅を中断して、大切な旅の仲間を捨ててまでゼルダと一緒にいるだなんて僕には無理な話だ。僕にはゼルダよりも大切なムメイがいるんだ。僕はお城に行きたくなんてない
「酷いことされてるのに、ゼルダを愛せるわけないじゃないか」
私は戸惑ったけれど、リンクの腕を掴んだ。
リンクの視線は私の手元へと向かう。私は別にリンクを慰めようとか、そういうことを考えているわけではない。ゼルダとリンクの間には他人には理解出来ないような出来事があったのだろう。だったらそれを掘り起こしてまで慰める必要などない。
戸惑っているせいかリンクの腕を掴む力は弱いものだったが、リンクは決してそれを振り解こうとはしなかった
「だったら、仕方がないね」
愛せないなら仕方がないよね、気持ちに嘘は吐けないもの。
王女様を見たことのない私には正直関係のない話だもの。
私はリンクが私のことを大切な仲間だと思ってくれてることのほうが関係のある話であって、それ以外は別にいいや、と思うことだった。聞いておいてなんだけれども。
「ありがとう、リンク。私もリンクと旅するのは想像以上に楽しいよ。助けてくれたのがリンクで本当によかったと思う」
だからほら。王女様のことをなんとも思っていないのならそれはそれでもう話は終わりだから、私のブーツとグローブを買いに連れて行って。旅が楽しいのなら旅をしよう。私だってリンクに捨てられたくなんてないから