花は君に根をはる | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


 10



「王女、ゼルダ王女!」

「はい」

「怪しい女とやらを先ほど発見致しましたが、あの男がどうやら女を守護している模様。脅迫めいた行為を騎士団長へ行ったとのことです」

「リンク、ですか」


ゼルダは重々しく口を開いた。

一般の兵士である報告者はそれを見て謝罪をする。別に兵士からしてみればリンクという男の名を切なげに呼ぶ姿が痛々しく見えたわけでもないし、王女に何か情があるわけでもなかった。けれども命令を完遂できなかったことは仕事上問題であるし頭を下げるべきなので下げたまでだ

どうせ騎士団長がまた何か変なことをやらかしたんだろう。考えたってその程度だ。

すぐにでしゃばる騎士団長がリンクとやらに突っかかって大方やり返しでも食らったんじゃなかろうか。まぁ予想を並べるようにこんなことを言う兵士はちらりとだけだが、その場面を少しだけ見かけていた。丁度リンクという緑尽くめの格好をした青年が女の子の手を放せと頼んでいるところだった

青年の言っていたことは一理あるのだ。青年は何も間違ったことなど言っていなかった。それは兵士である男がそういうのだから寸分違いなくそうなのだ。怪しいからといって無理矢理縛るのは横暴かつ理不尽なことなので駄目だと以前王女が話していた気がする。というか騎士第19条にそれらしきことがのってはいなかっただろうか。これだから騎士団長はいつか辞任されるだろうって噂が絶えないんだ

というか、そもそもどうして王女が騎士団にリンクを誘っているのかといえば、それは至極単純な理由であって、大したものでもなければ兵士にはあまり興味のあるものでもなかった。

だからリンクにめげずにしつこく手紙を送ってはたまに返ってくる拒否の言葉に涙を流しているのである。家臣たちはさぞかしさめざめと泣く王女を見て心を痛めていたことだろう。それも兵士には関係ないことだ。騎士団長の交代がいつまでたっても行われないから兵士たちはさぞかしストレスも溜まればイライラもしていることだろう。それでも兵士には関係のないことだった

騎士団長のことを清く思ってる人などあまりいないのが現実。兵士はなんとも思っていなかったが、それなりに強くそれなりの地位に元々居たのが今の騎士団長であって、地位には誰しも勝てないものだと兵士はよく理解している。理解しているからこそどうしてただの旅人であるリンクと王女が顔見知りで、王女がリンクを地位の少し高い騎士団長に任命しようとしているのかが意味がわからない。

きっと色々あったのだろうけれど。ただリンクとやらも散々だなと兵士は口にしたい気分だ

たぶんだがリンクはあの平凡で戦うことも出来ないような女の子を守ることが、今のするべきことだと感じているに違いない。それがたとえ友人のような存在である女の子だったとしても、王女よりも女の子のほうがリンクにとっては大切なのだ


「リンクが守っている女性ならば間違いはありません。その女性をリンク同伴でも構いませんから、連れてきてください」

「御意」


兵士は知っていた。たまたま王女の手紙とやらを見てしまったのだ。

女の子はこの世界の人間ではないらしい。俄かには信じ難いことだったが、きっと王女の言うことなのだから本当なのだろう。王女は何かしらの予知や神様からのお告げとやらをよく聞くらしいから。

だったら、と兵士は思う。

王女がどうしてここまで女の子を捜しているのか。どうして異世界から来たからといって、ハイラルに害がないということもわかっていて女の子を捜すのか。兵士は容易く想像した。そちらの思考がもっとも働くわけではないし恋愛云々には些か鈍い兵士であったが、王女を見ているとわかる

女の子が邪魔なのだ。

そりゃあもうとてつもなく邪魔。

だって、愛した男が異世界から来たとか意味のわからない存在である女の子を守っているのだ。突然現れた女に愛している男が手を差し伸べている。王女はきっとそれが嫌で嫌で仕方がないのだろう

王女は女の子を元の場所へ帰す方法も知っていたし、本当に女の子だけが王女の下へと来てくれればそれですむことなのだ

けれど兵士は、果たしてそんなことをしてもいいものかと悩む。

王女はどうでもいいけれどリンクとやらはとてつもなく可哀想だ。もしリンクから見て女の子が今や大切な存在になっているのだとしたら、王女の我侭で二人を引き裂くのはどうかと兵士は思った。王女は大体我侭だ。強く賢く控えめで優しい王女なんてただの上辺だけでしかない。本当は、いや、違う。本当に王女を知ろうと思えば、王女の今までの人生を振り返ってみれば、それはとてもよくわかることだった。

いけないことではなかった。だってお姫様として生まれているのだから。あぁでも、兵士には王女が一般人を巻き込む権利など何一つとしてないと思うところがある。民が、人々が王女に触れることさえ、話しかけることでさえ許されないのならばその逆もまたある。兵士はどうにも王女を好きになれるような気がしなかった。結局は、自分が招く結果に今まで散々泣いて喚いて人々を困らせていたのだ

大切な男に酷いことをしてしまったと。

大切な男よりも国を選んでしまったと。

悲しいのは王女の頭の中身だろう。とんだ我侭だ。男が欲しいならば国を捨ててでも一緒に居ればよかったじゃないか。たったそれだけではないか。リンクの大切な人間である女の子は平気で元の世界へ帰そうとするのに、リンク自体を巻き込んでしまうことはしたくないと、王女は今日もうたって泣き叫ぶのだ


「女性の名前は・・・・・・・・・・・」


ムメイ、ムメイだったはずです。その女性に会いたいのです。

しくしくと泣く。泣けば家臣が慰めてくれる。泣けば皆動いてくれる。みんなが動けば女の子、ムメイは王女のもとへと現れる

なんて単純。女だからって調子のいいやつ。

悪口を叩くわけでもなければ嫌っているわけでもない王女に対して、心底そう思った。それは嫌味なんかではなく、純粋な子供が呟くような言葉と全く一緒だった