09
初めて城下町というところに来た。リンクが服や靴は変えたほうがいいかもね、と連れてきてくれたのだ。まぁさすがにサンダルに制服はきつかったので正直有難い。別の世界であるのならばその世界に常識をあわせるのもまたしかり。服装はこの世界のものを着なければ視線が尋常ではないし、変な噂が流れ始めているようなのでそろそろちゃんとしなければいけない
そもそも家に帰ったらすぐ着替えるということを何故しなかったのだ私
リンクに迷惑はかけられないと(ただでさえ面倒みてもらってるのだから)草をむしってむしってむしりまくってルピーは集めた。この世界どんな仕組みしてるんだろう。草むしってれば生きていけるんじゃないかこれ
200ルピー入ったお財布を持って、この財布を軽くするべく街を歩き回る。服と言ったって何がよくてどういったデザインがいいのかいまいちわからないが、まぁ軽装だったらなんでもいいだろう。そう思ってリンクと街を歩いていれば街の住民であろう人々が何やらこそこそとこちら見て話しているのがわかった
うん?と周りを見渡して不思議そうにする私にリンクは無理矢理気にするなと腕を引っ張る。別に痛くはないが転びそうだったので、引っ張るときは「引っ張るよ!」ぐらい言って欲しいかな。こんな人前で転びたくなんかないよさすがに
どんどん進んでいくリンクに歩幅をあわせて少し小走りする。足の長さを痛感して酷く惨めになった。えぇどうせ短足ですよ長くないですよすいませんねぇ!
くそう、とリンクの長い足を見ながら恨めしそうにしていると、ふと、急にリンクが立ち止まった。当然前を見ていなかった私は、たくましいリンクの背中に顔面豪打することとなりあやうく鼻血まで出してしまうかと思うぐらいの痛みに悶絶する。
うおおおいってぇぇえ!リンクの背中いってぇええ!筋肉このやろう!
「おい、そこの怪しい女」
「あ、はい」
「いや返事するなよ」
鋭いリンクの突っ込み。いやまぁここで即返事をすれば自分が怪しいやつだって自覚してるってことだし、リンクが言うのも無理はないが。でも制服とかこの世界じゃないだろうしなぁ。そら怪しいわ。仕方ない仕方ない
どうやら私を怪しい女と呼んだ男は兵士のようで、鎧をガシャガシャと言わせている。別にそれはよかった。それはいいのだが、なんだかリンクを嫌なものでも見るような目で見ているのが気になる
「(なんだこいつ・・・・・・・)」
何かリンクがしたのだろうか。
兵士は私を上から下までじっくりと舐めるように見ると、やはり怪しいと思うのか眉間にシワを寄せた。兵士が向けるリンクへの視線が気に入らなくて私も負けじと頭一つ分身長が高い兵士を睨みつけた。どうだ。私のにらむこうげき!
「なんだその目は。生意気な女だな」
「(私が黙ってれば好き勝手言いやがって・・・・・!)」
「こいつの同行者ということはろくなやつじゃねぇだろう。おい、この女を捕らえろ。何をしでかすかわからんからな。厳重に縛っておけ」
「ハッ」
えっ、えぇぇええ睨みつけたことは謝ります謝りますからどうか縛るのだけはご勘弁を私そんな趣味ないから!
兵士が他のやつに私を捕らえろと命令を下したところで、私があわてふためくのと同時にリンクが動いた。いつもどおり表情はあまりなかったが、兵士が私の腕を掴んだことによりリンクが兵士の腕を掴んで引き離そうとする
兵士はリンクを見て顔を顰めた
「なんだ。文句でもあるのか」
「ひとつだけ言わせてもらうけど、他人の同行者に手を出すなんて君本当に騎士団長?実害もない人間を無理矢理捕らえようとするのはいかがなものかと僕は思うけど」
「怪しい女を捕らえて何が悪い。全てはこの街とゼルダ様を守るための行為だ。ましてやお前みたいなやつと一緒にいる女なんてなおさら危険だな。この街を歩かせるわけにはいかねぇ」
「あぁだったらゼルダにこう伝えて。“君が探してる女の子は僕と一緒にいる”ってさ」
「は?」
「話は終わり。どうせ怪しい女がいたら即城に連れて来いとか命令されてるんだろ?安心してって、僕がちゃんと女の子を元の世界に帰すとだけ伝えて」
「なんのことだ。詳しく話せ!」
「君に話す義務はないし君は関係が全くと言っていいほどない人間だから、いい加減その子の手を放してはくれないかな」
リンクが危害を加えることもしないことを証明するために、兵士から手を退ける。
しっかしみしみしと骨が軋む。もうこれ兵士のおっさんの手形つくんじゃね?腕赤くなってるよ絶対。若干腕青くなって血が止まりだしてるもん。止血ってか。やめろ。怪我なんて私はしていない
でも冗談抜きで本当に痛かったので、放して欲しい一心で腕を引く。掴むにしても加減をしろ加減を
兵士は抵抗する私を見てリンクの態度に苛立ったのか、私を引っ張りあげた。文字通り引っ張り上げた。片腕をつかまれて上に上げられれば、私の足は地面から離れる
うびっ、と意味のわからない小さな悲鳴をあげて地面を見れば、嘘なんかではないことがよくわかった。浮いてる。私浮遊してるぞ・・・・!腕痛い!
「いたっ、いたい!いたいってば!」
「こいつを早く捕らえろ!」
「僕は一度だって君たちに危害を加えたことなんてなかったじゃないか」
「だからといってお前たちが何かをしでかさないとは限らない!ただでさえゼルダ様が酷く、おまえのせいで傷ついておられるのだ!時のオカリナをどうやってゼルダ様から奪い取ったかは知らんが信用ならん!」
「千切れる!千切れるからこれ!やばいから!」
リンクが笑った
リンクはあまり笑わないから、どうしてこんな状況で笑ってるんだとぎょっとした。兵士は気味の悪いとでも言いたげな顔をする
ま、ままままぁ?笑うのはいいことだしそりゃあリンクは綺麗な笑顔してると思うし全然、ぜんっぜん悪いことなんではないけれども。嫌な予感しかしないのは私だけではないだろう。あ、ごめん。兵士さんはそんな予感なんてしてないみたい
冷や汗がたらりと背中を伝った気がした
「だから 全部君が知るべきことはないって 何度言ったらわかってくれるの?」
メキメキッピシッバキッ
そんな音がした。
見たら、私を掴んでいるほうの腕とは逆の兵士の腕をリンクが掴んでいた。兵士は鎧を身に纏っている。腕には鎧。しかしその鎧はリンクのたった「掴む」といった行為だけで、ヒビが入りしまいにはバラバラに砕け散ってしまった。
サッと顔が青くなるどころか兵士の顔色を伺う辺り、自分がリンクの力の強さに慣れてしまっていることがよくわかる
「な、な・・・・・!!なん、」
「放せって言ってるの。この子はゼルダも知ってる怪しい子じゃない。何、放せって言葉の意味がもしかしてわからないの?そうなの?それだったら仕方ないから腕一本取れることになっちゃうけど許してね」
兵士はすぐさま私の腕を放した。