突然だった。
本当に突然、隣を歩いていたロズちゃんが、吹っ飛ばされてしまった。
「っは?」
何が起きたのか、一瞬わからなかった。
急いで後ろを振り返ると、ロズちゃんは結構離れたところで倒れてしまっていて動く様子がない。彼女の通学カバンも中身をぶちまけてしまっている。
瞬時に視線を前に戻せば、そこには気色悪い怪人が威圧感を放ちながら、立っていた。
すぐに動けずに怪人を見上げる。周りの人達はすぐさま叫びながら走り出していたというのに、その場から動けなかったのは、迷ったからだった。
今この場で、どうするか。
ガアアァァ!!と変な奇声を上げた怪人をにらみ上げ、意を決して地面を殴った。
「うらあああぁ!!」
たちまち視界にはびこる緑は、先を尖らせて怪人を次々と串刺しにしていく。暴れないように頑丈なツタがやつの動きを封じては、何度も何度もぶっ刺した。これくらいで死んでくれるのかわからなくて怖かったが、もう原型もとどめないほどに攻撃したのでおそらく大丈夫だろう。
フッと力を抜けば、コンクリートを破壊して地面から伸びていた植物たちが消えうせる。携帯電話が通学カバンの中で振動を繰り返していたが、どうせ政府からだろうと無視した。
ふわふわと視界が揺れては暗転する。何も見えなくなってしまったので、その場から動けない私は、ヘタリとコンクリートの上へ座り込んだ。
◆◇
「シルヴィ!」
近くで怪人が暴れまわっているとの情報があり、急いで駆け付けたのだが、怪人はもういなかった。代わりにそれだったであろう残骸が、地面に散らばっている。
辺りを見渡すと人こそ少なかったものの、見知った顔が座り込んでしまっているのを確認した。
そこから35mほど離れた場所にも人が倒れていたが、サイタマとジェノスはまず座り込んでいるほうへと駆け寄る。
「おい、大丈夫か?シルヴィ」
「シルヴィ・・・・・・?返事をしろ、おい」
ぼうっとしてしまっているシルヴィの肩をサイタマはつかんで揺さぶる。もしかして何かあったんじゃないかとさえ思ったが、数回揺さぶると反応を示した。視線を動かしては「サイタマさん?あ、ジェノス君もいる?」と呟く。
まるで、そこにいるのか、ちゃんと確認するように。彼女はたずねた。
そんなの見ればわかるだろうに、どうしてそんなことを訊くんだと彼女を見ていれば、おかしかった。どことなく、視線がかち合わないのだ。
ジェノスやサイタマのほうを見ているようで、焦点があまり定まっていない。ぐらぐらと不安定に揺れる瞳に、サイタマは確信したようにシルヴィに確認をとった。
「俺が今どんな顔してるか、わかるか?」
「・・・・・・・・・・・・?」
ぐっと眉間にシワを寄せて首をかしげるシルヴィを見た途端、ジェノスも確信する。
こいつは目が見えていないのだと。
確信すると焦って、ジェノスはシルヴィの名前を呼んだ。ジェノスが冷静ではなくなりそうになっているのを察知して、シルヴィは弱弱しく苦笑する。
「ごめんね、ちょっと、見えない。真っ暗なんだよね。ごめん」
「何をされた?大丈夫なのか!?なんで、」
「いや、うん。しくじったの。目はもうちょっとしたら治るから、それまで支えになってくれない?」
あと、ロズちゃんがどこかに吹っ飛ばされてると思うから、助けてあげてよ
サイタマが小さくうなずいて、倒れている少女のもとへと向かいだす。先生がロズを病院まで運んでいるということを伝えると、また笑って、今度はシルヴィは、両手をジェノスのほうに伸ばした。
それに応えてシルヴィを抱き上げる。歩くよりは安定するだろう。
「このかたさはジェノスだ。間違いない」
「なんの確認だ?」
「もう、目が見えないと不便なんだよ。触ったりしないとわからないから不安なんだって」
それを聞いたら、ジェノスまでもがさらに不安になった。