一番大好きなショートケーキの上にある苺を、お皿の端によせてケーキを食べていると、そこに魔のフォークが横から飛び出してくる。
や、やめろ・・・・!
それは一番楽しみにとっておいた苺なのに!!
兄の手を必死の形相でつかんで喉がつぶれんばかりに叫んだ。
「私の苺だバカやめろぉぉお!!」
「な、なんの話・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・?」
ハッとして目が覚めた。
あれは夢だったのか!とリアルで握りしめてしまっていた山川の腕を離して、それから笑ってごまかす。やだ恥ずかしい。叫びながら起きるとか!
キャッ!と頬を染めて恥じらいたいところではあるが、そんな可愛らしい乙女でもなんでもないので私はあることに気づいた。そういえば山川は男子だからテント自体違うはずなのだが、どうしてここにいるんだ?
そう思って隣で寝ていたはずのロズちゃん含め数人の女子が居たはずのテント内を見てみると、誰もいなかった。おや?もしやこれは・・・・
「シルヴィ!とりあえず早く急げ!起きたんなら走るぞ!!」
「な、なに?怪人?つーかみんな私おいていったの!?」
「お前が中々起きないからだろ!?しょうがないから俺が起こしに来た!俺ならちょっとやそっと、怪人に殴られたくらいじゃ死なないし・・・・!!」
「え?」
「本当に近くに来てるんだ、しかも割とでかいから、逃げないと!」
無意識に携帯を握りしめてから外へと飛び出す。まだ外は暗くて、キャンプ場の電灯があるとはいえ視界は悪い。
山川は意外と足が速くて、腕を引っ張られるようにして私も頑張って逃げていると、どこからか地響きが聞こえた。あまり大きなものではないが、もしや怪人のものだろうか?
「ねぇ!!これ下のほうから来てるんじゃない!!?」
必死に走っているからか自然と声が大きくなる。足音は確かに下っている道のほうから聞こえるから、上に上ったほうがいいのでは、と思ったのだ。
二人して足を止めると、迷いながらもとりあえず上にのぼろうか、と話をした。
「そもそも怪人って、どのくらいの大きさなの」
「ラジオでしか情報が流れないから、たぶん体長15mはあると思う。ラジオ聞いてての憶測だけど。けど大きさはともかく今回はちょっと強いみたいで、A級のヒーロー達が出てくるらしい」
「・・・・15m?だったらもう見えてるんじゃ・・・・」
そこまで言いかけて後ろを振り返ってみた。山川もまったく同じ行動を共にすると、割とすぐ近くまで来ているのか、木々の上からひょっこり怪人の顔が見えていた。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
二人して顔を見合わせる。
「あの、さ。思ったんだけど・・・・この怪人、昨日から暴れまわってるんだよね?」
「確かそう」
「さすがにA級ヒーローたちも倒し終わっててもいいころだと思うんだけど、なんであいつまだ生きてんの」
「それぐらい強いってこと、」
ヒヤッとした汗が二人の体に流れると、即座に私が声を張り上げて地面をたたいた。
「逃げるよ山川!!」
「はっ!?」
ものすごい音を立ててでかい植物が地面から生え出てくる。それを驚いた様子で山川は見ていたけれど、それに構ってなどいられないのでそくざに道をつくった。もう山道なんて走ってられない。直接山のふもとまで一直線の道をつくらなければ!
でっかい植物の茎によってできた道を、山川の手をひきながらまた走り始めた。つーかS級出てきてもよかったんじゃ・・・・!
いい加減走るのキツイし!!
「滑り台つくるわ!もう無理!走れない!」
「お前さっきから無茶しすぎ!!」
「なによ逃げられないでしょこうでもしないと!」
表面がツルリとした植物で滑り台をつくると、そこを爽快に滑って見せる。
と、山川がぼそりと呟いた。
「ん?10m先・・・・」
シルヴィ踏ん張れ!!
はあ!!?
「ちょっ、なになになに!!」
ゴォオン!と横から衝撃波が来て思わず体がぐらつく。なんだ、何が起こってるんだ?
すぐ右を見ればなにか、大きな鉄の塊が私と山川の壁としてそこに存在していた。びっくりして山川を見れば、ところどころからビシッ、ビリッと電気がバチバチなっているのが見える。火花もたまにあがっていた。
こいつ、ジェノス君と一緒か!
「ふもとまであと少しだ!耐えろよ!!」
「あんたもね!」
怪人のスピードには驚きだが、とにかく攻撃は山川が防いでくれているらしいので、まずはふもとを目指して急降下する、もはやジェットコースター並の滑り台を気を付けながら滑った。
とにかく必死だったので、まさか私の携帯に着信がきているということにも、気づけなかったのだ。