06
昔、大分前の話にはなるのだが、トラーフォースの器となるべき人間が一人いた。トライフォースを誰もが手放した際に、それらがある特定の人間のもとに集まるのだそう。ようはトライフォースの持ち主がいなくなった時点で、トライフォースはその器に戻っていくのだ。
その器である人間は、男だった。とても若かった。
話ではハイラルの力として献上されたらしいのだが、人間をささげるなど今では考えられないようなことをしでかしたものだと思う。献上された国の王女もそれを拒むことなく受け入れ、祭壇にてその男を神の遣いとした。
ところがある日、その男は突然消えた。大きな戦争が終わった後のことだった。
「昔、とても大きな魔物の軍勢がハイラルを囲んだのですが、幾万にも及ぶ魔物の数を彼は一瞬で消し去ったのだそうです。もしそんな力が彼女にあって、それを野放しにしてしまえば危険でしょう」
男が消えてからというもの、器となる人間は現れはしなかった。目元にあるトライフォースが特徴だから、とてもわかりやすいのに、誰も見ていないし見つけられなかった。
唯一その器である可能性が高い彼女と、会話することのできるリンクはサキを見る。サキは落ち着かないのかずっとそわそわしていて、まるで居場所がないかのように視線を動かしていた。
「彼女はおそらく、別の世界の人間でしょう。ルト姫やダルニアと一緒です。もしかしたら二人と同じ世界からきたのかもしれませんね・・・・・・もしくはミドナ辺りと同じ場所から、気づかないうちにこちらへ来てしまったのかも」
でも、まるで魔物を見たことがないような反応をしていたし、ゾーラ族を見ても驚いていたから、まったく違う世界からきたのか。
憶測はいくらでもできるが、結局なんにせよ身近に置いておくことに決めた。通訳はリンクがいればできるし、王女も言葉が通じないことには不便さを感じていたが、そこまで大きな問題ではないのかもしれないとも思う。
「ねぇリンク、お腹すいた。何か食べられるものはない?」
「うそ、さっきパン食べてただろ?」
「あんなんじゃ足りない!パンって腹持ち悪いんだよ知ってる!?つーかリンク、あんたは足りてるの?」
「足りてるけど?」
「女子か。御昼ごはんにおにぎり一個しか食べない女子かお前は」
「えぇ・・・」
とりあえずリンクとサキの仲は良好そうなので、二人だけ放置してインパにパンをひとつ、彼女のもとへ持っていくように指示した。リンクの会話からして、彼女がおなかすいたと言っていたのだろう。
ただで彼女を置いておくのは惜しい気がしなくもない。
ただ、今の彼女に何ができるのかと考えたときに、何も出てこないのが問題だった。
「シアの宮殿へ向かうのは、明後日にしましょう。彼女にいろいろと教え込まなければいけません」
「御意」
一体、ほんとう、何ができるのか。