07
第一回目の出陣は、見事大成功となった。
帰ってきた三人を迎えて、とりあえずテレビのアンテナをみんなが頑張っている間につなげたので、居間でくつろぐ。と、そこで携帯が鳴っていることに気が付いた。
「あれ?」
非通知でかかってきてはいるが、どうやら携帯電話からかかってきているわけではないらしい。固定電話だろう電話番号を見つめてから、おそるおそる電話に出た。そうしたら聞きなれた声が聞こえはじめる。
「あ!出てくれてよかった〜」
私の名前を確認されたので、それにうなずく。現世にいたころにしていた、アルバイト先からの連絡だった。一体どうしたというのだろう?もう私が入る曜日のシフトはないはずだし、これなくなるとも、辞めるとも言ってあったのだが・・・・
「実はね〜、三橋さんがインフルエンザにかかったらしくて、明日の9時から12時までシフトが開いちゃうのよ。お給料はちゃんと出るから、もし大丈夫だったら出勤頼めないかしら?」
「えっ、え〜・・・・」
まさかの出勤。こちとら意味のわからない審神者とやらになって、住働きしてるっつーのに。
とはいえ、もうほぼ本丸が家も同然の存在にはなるのだろうし、明日の分としてこんのすけが持ってきた書類はそう多くはない。政府に問い合わせてみて、もし現世に戻れるのであれば、三時間くらいだったらいいかなあと思い始めた。
お小遣い稼ぎだ。ついでに今月分の最後のお給料ももらってしまおう。
「すいません、ちょっと用事を確認するので、折り返し連絡します」
「お願いね〜」
おつかれさまです。そういって電話を切ると、携帯電話に興味深々の三人を無視して報告した。通話中、静かにしてくれていたことは有り難かった。
「あのさ、明日私、9時から12時まで用事がはいっちゃったから、留守番頼める?」
そういうと、三人とも目をぱちくりとさせていたので、私もついおんなじような顔になった。何をそんなに唖然としているのだろうか?
三人の顔を見渡すが、三人はなぜか視線をあわせると、突然じゃんけんをしはじめた。ちなみにこれは私が教えた。
「最初はグー!じゃんけん、ぽん!」
とりあえずそれを見守っていると、光忠と薬研がパーを出して、三日月がチョキを出していた。
なんだこれ、と首をかしげながらもう一度三人を見渡すと、三日月が手をチョキにしたまま嬉しそうに笑っていて、後の二人が見てわかるくらいおちこんだ。なんだこれ。今のじゃんけんでなにが決まったんだ?
わけがわからないと一人考えていたら、薬研がぽつりとつぶやいた。
「不安だ・・・・・」
「え?何が?」
「三日月さんには今回、引いてもらったほうがいいかもしれない」
「だが公平にじゃんけんで決めたであろう。行くのは俺だ、邪魔はさせん」
「だから何が。なんのじゃんけん?今何が決まったの?」
「え?そりゃあ、大将、現世に行くんだろ?」
「うん・・・・・?そうだけど」
「だったら近侍を一人連れていかねぇといけねぇからな。それを決めてた」
一瞬で三日月の前で土下座した。
「お願いします今回はあきらめてください」
「早いな主」
「だって!三日月なんて不安しか残らないじゃぁあん!」
農具のことも知らなかったやつだぞ!?現世に連れて行ったらどうなることか!
そんな三日月を連れていくくらいなら、光忠もしくは薬研を連れて行ったほうがいい。そう結論づけていた私たちを前に、三日月が私の思考をくみとったのか、こういった。
「まあそう心配するでない。爺とて、現世は初めてではないのだぞ?すでに3、4回ほどは足を運んでおる」
「嘘でしょお!?」
「そういえば三日月の旦那、てれび見てもあんまり驚かなかったな」
「ん?あ、確かに」
確かにそうだ。そういえば。
三日月は、ほれ、なんの問題もなかろうといわんばかりに笑って、そして「勝ったのはこの俺だ。近侍も、この三日月に任されよ」と口にした。不安しかないのは、誰が近侍でも一緒なんだろうなあ。