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どこかおかしいサイボーグ(恋病) 


「な、なんで・・・・」


敵意剥き出しのジェノスを前に、私は困惑した。

一歩、一歩と下がる私に対して、彼もまた同じように距離を詰めてくる。彼は何も喋らない。


「ねぇ、ジェノス君・・・・?」


まずい、と思った。

なぜか彼は今正気ではない。近くにサイタマさんはいないので、ストッパーも必然的に存在しないことになる。彼を被害を出さずに止められるのなんて、サイタマさんか、タツマキさんたちみたいなエスパーの人間でなければ無理だ。

私の力は主に植物であるから、刃物に強くはできたとしても、道路すらえぐってしまう彼の火力の前では塵も同然。相性は最悪だった。

そしてこれもまた不思議なことに、なぜか彼は私だけを標的にしているのか、その他の人間には見向きもしない。


ハッキリ言おう。

とてつもなく怖い。


「(暴走してる・・・・?いや、でも)」


とにかく逃げなければ。まともに戦わなければ、私の力であっても逃げることくらいには役に立つ。それに、先ほど賞金首を狩ったばかりで丁度お面もある。力を使ったところで顔バレはしない。

誰かに言わなければ、いけないのだ。今とてもじゃないが、ヒーロー協会やほかのヒーローたちに連絡できるような状態ではない。少しでもいいからどこかに隠れてヘルプを出せないかと模索していると、彼が手を伸ばしてきた。ハッとして私は動き出す。

足元から植物を思いっきり出して、自分の体を高い位置へと非難させる。もちろんジェノスはその植物を走って登ってきたので、また更に新しく植物を出して足場を作った。先ほどまでいた草と今現在私がいる草の間に、大きな植物の壁をつくる。燃やすにしても一瞬の時間は稼げるだろう。

何度も何度も試行錯誤しながら足場をつくり、森のほうへと逃げ込むことに成功した。仮面は取れてしまったが、問題ない。ここなら隠れる場所もあるだろうし、一般人への被害もないから一安心だ。追ってくるジェノス君に違和感を覚えながら、必死に逃げていると、ついに足場として出していた植物が一瞬にして燃やされてしまった。

ぐわっと突然の浮遊感に驚き、下を見る。そこそこ高い位置で逃げ回っていたので、このまま地面に叩きつけられたら即ぺしゃんこだろう。

慌ててクッションをつくらなければ!と意気込んだところでジェノス君に空中キャッチされてしまった。


「ぉえ!!?っ離して!!」

「・・・・・・・・・」


じたばたと暴れても、彼の腕はまったく、微動だにすることはない。そこでふと気づく。私を攻撃するそぶりは、対面したときの最初の一撃以外は全くないのだ。

そもそもおかしい話。彼の機動力なら私なんて簡単に捕らえられただろうに、先ほどまで中途半端に逃してくれていたのはなんなんだ。私が知っている暴走サイボーグは理性なんてものはなくて、手あたり次第にものを破壊し、他人を殺していたはず。

暴走しているわけではない?

だが確かに私に向かって、挨拶も何もなしに攻撃をしかけてきたのはジェノス君だ。いつもならそんなことは絶対にしない。喋りかけても、返事は返ってこない。

明らかにどこかおかしいのは明白だというのに、原因が全くわからないものだから、私の混乱はおさまることを知らなかった。


「ジェノス君!!」


名前を強く呼んでみる。だが彼は反応を示さない。

私は混乱したまま数秒後には地面に叩きつけられ、呼吸が一瞬出来なくなる。後頭部を打たなかったことだけが幸いだった。

起き上がろうとした私に、彼はすぐさま跨る。何も、しゃべってくれない。


「(・・・・こわい)」


怖い。圧倒的な力の差があることは、普段から知っていたけれど。こうやってみると本当に、私はただただ彼に殺されるしかない弱い人間だ。思い知らされてしまった。

彼の手が私の首にのばされる。ゴツゴツとした機械特有の硬い手のひらが、私の首筋をするりとなでた。

途端、ぶわりと恐怖が爆発し、涙が出てくる。


「や、やめて・・・・!殺さないで・・・・!!」

「・・・・・・・」

「じぇのす、く」


キュルキュルと彼の瞳孔が縮小、拡大を繰り返した。

私の首を掴んだ手は力こそ込められていないものの、少しでも彼に刺激を与えてしまえばすぐにでも絞殺されてしまう。今の彼は危うい。それがわかっていても、命乞いをやめることはできそうもなかった。


ゆるして、ごめんなさい、と呟くようにして私の口からぽろぽろとこぼれていく。


「いやだ、ほんとにゆるして!ごめんなさい、ころさないで、ころさないで・・・・」


首が絞められていく

耳の奥がキュッと詰まるような圧迫感を感じ、涙が量を増す。殺されるんだ、ジェノス君に

いよいよあきらめて口を閉じ、自分の体がガタガタと震えるのを感じながら目を閉じた。その時だった。

突然、圧迫感がなくなったのだ。


「っ、え」


そして遠くからものすごい轟音が聞こえる。急いで体を起こすと、機械仕掛けの腕のみがちぎれて私の首に残っていた。それを、目の前に立っている人物が引きはがしてくれる。

誰だと顔をあげたら、そこにはサイタマさんが立っていた。ああ、あぁ!!


「た、たすけ、サイタマさん・・・・!」

「もうジェノスはいねーぞ。それより、大丈夫なのかよ?けがは?」

「ないです、けど」

「あ〜・・・・なんかあいつ、一部中身がおかしくなってんだよな。さっきあいつが倒してた怪人が変なやつでよ。たぶんその怪人が何かしらジェノスに影響与えてああなったんだと思うわ。どうやったのかは知らねーけど、ジェノス突然戦うのやめてお前のとこに行っちまって」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・怖かっただろ」


ぶわりと、また涙が込み上げた。



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これでジェノスが首を絞め始めた辺りから正気に戻ってたらおもしろいなって。


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