敵側に行かなきゃっていう話
首に刃物を突きつけている彼女が見えたから、急いで起き上がってとめようとしたら逃げられた。しばらく唖然としたものの俺も追いかけることにしたが、彼女はしつこく逃げ回る
「なまえ!!」
名前を呼ぶも一向に振り返る気配などなく、それに痺れをきらせて装備していた剣を狙いを定めて投げた。
上手いこと剣はなまえの横スレスレをとおり、なまえの行く手を阻むように彼女の少し斜め前に突き刺さる。少し足を止めたなまえは進行方向を変えようとしたものの捕まってしまった。
息があがる。それが恐怖からなのか、走った疲れからなのかわからない
「なまえ・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「なぁ、どういうつもりだよ」
「・・・何が?」
「しらばっくれてんじゃねぇぞ!」
ヴァンが必死になっていくのに対して私も焦りはじめた。隠し事があるのだから、ばれたくなくて、でも上手く隠す方法を知らない私が逃げてしまうのは当たり前だ。でも口が裂けても私の隠し事を話すわけにはいかなかったし、もしそれがばれてしまったらヴァンたちにどう思われるのか、ものすごく怖かった
怖くて怖くて、どうしようか悩んだら、
死ぬっていう選択肢が突如出てきたものだから、ためしに自殺でもやってみようってなって、
「ご、めん」
「なんで逃げたんだよ、何しようとしてた!?」
「ねぇ、ヴァン、お願い」
「まさかあのまま・・・・っ」
「ヴァン!!」
もうやめて何も聞かないで
ヴェインのところに行くって話したらきっと私は嫌われるから
帝国側の人間になるのよって話したらきっと、というかもう既に裏切り者だから。貴方達の敵にならなくちゃいけないから
「やめて・・・・・!私、行かなくちゃいけないところがあるの!行かなきゃ酷い目に遭うのよ!」
「どこに!」
「どこだっていいでしょ!?ヴァンにはもう関係ないんだから!」
強制的に仲間になることを言われている。私はヴェインの元へいかなければいけない。それか、この命を手放すかのどちらかだ。
ならばどちらかを選ぶにしても、まずはヴァンが邪魔だった。どうやって私の腕をつかんでいるヴァンを振りほどこうか迷っていたら、ヴァンの今まで聞いたことのないような、地を這う低い声が耳に届いた。小さく肩が跳ねる。ヴァンの目つきが鋭くなっていく
「関係ない?」
「・・・・・っだってヴァンには、」
「なあなまえ」
お前がどんな目に遭ってるのかなんて知らない。話そうとしないお前が悪い。
「どっかに行くっていうなら、離す気はないからな。逃げるのはやめて諦めろよ」
この手を離したらもう二度と元には戻れないような気がした。なまえの顔は困惑したようなものに染まっていたが、それでも手だけは離さなかった。それどころか痛がるぐらい、痕がつくくらい強く掴んで顔を歪める
「まだみんな寝てるから、俺たちも戻って寝ようぜ」
戻ろう。どこにも行かせはしない