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04



女がこの世界に来たのはひょんな出来事からだった

偶々足を滑らせてしまい、学校の階段から落ちてしまうというあの出来事。それが全てのきっかけだ。別に転ぶこと以外予想も出来ないようなものなのに、転ぶ衝撃を考えて目をぎゅっと瞑ったときには既に知らない場所にいた

そこは戦場だ

兵士がいた。馬もいた。地面に力なく横たわる鎧もたくさんあって、平和な世界で生きてきた女には到底似つかわしくない生々しい、まだ液体状の血液だってそこらじゅうに零れていた。発狂してしまうかと思った。しかもよく見たらポツポツと、変な生き物までいるではないか!

どうしたもんかと悩む暇もなく女は涙を流した。トカゲもどきのモンスターのようなものが二足歩行で戦っている。目からビームを発する機械みたいなやつだってあって、目がぐるぐると回った


殺される!こんなところにいたら駄目だわ!


そうは思っても動けないのが現状であったので、弱い女は泣くしか出来なかった。

憎々しいぐらい口の達者な弟や、両親、自意識過剰な兄を思い出す。走馬灯みたいなものだ。走馬灯だなんて嫌な表現かもしれないが本当だった。それくらい死を覚悟したのだ。いつあの化物がこちらに気づいて襲い掛かってくるかもわからないのに、安心なんて出来たものではない

しかもそう思った瞬間にトカゲもどきに気づかれたではないか。あの時は心臓が止まる勢いで驚いた。タイミングが良すぎた。

こちらに向かって走ってくるトカゲは持っている剣を振り上げて、獲物を見つけたときのようなギラギラとした好戦的な目でこちらを見る。発狂する、寸前で、その人物は現れた


「大丈夫!?」


馬の蹄の音が強く間近で聞こえたかと思うと、トカゲは一瞬にして遠くへ吹っ飛んでいってしまった。馬が撥ねたのだ

びっくりして顔をあげると、馬からひょいっとおりてくる男。彼はとても綺麗な金髪をしていて、空のような青い瞳をもっていた。とても印象的な緑の服を着ていた彼は、一瞬にして女の心を奪ったのである

昔から御伽噺は大好きな女はいわゆる夢見る乙女というやつで、乙女思考もそれこそ幼児とあまりかわらないようなものではあったが、白馬の王子様というやつをいつも頭に思い浮かべてはあこがれていた


確かに、馬は純白のような白ではないけれど、

確かに、どこかの貴族のような身なりではなかったけれど、

確かに、想像していた王子様よりははるかに違いのある人物ではあったけれど、

自分のピンチに駆けつけてくれて、敵を力強くなぎ倒し女の手をとる男は、女からしてみれば王子様そのものだった


(この人は・・・・!きっと運命の人ね!?だってこんなにかっこよくて、こんな出会いをするんだもの、違いないわ!)


押し付けがましいとはわかってはいても乙女心には勝てない。女は自分の世界は別のところにあり、いわゆるトリップらしかぬものをしたのだと話した。見たこともない服装や女の書く文字に、リンクは納得した様子で、女は喜んだ

これが同居生活のはじまりだった


けれども、それまでは、そこから今日という今日までは、女の話などリンクから一切聞いたことがなかった

だから女の存在などリンクにはいないのだと思っていたのに。リンクはあろうことか、それこそリンクを相手にしている女のように頬を染めて、別の女性を見ていた


「ヴィル!お帰り!なんで手紙出したのに返事出してくれなかったんだ?」

「忙しかったのよ・・・・・無理して帰ってきちゃったから疲れたの。今日はもう早く寝るから、長居はしないわ」

「そっか・・・・・・・・」

「ほんとあんたは私が好きねぇ。そんなに落ち込まなくてもいいじゃない?ほら、お土産」

「え、もらっていいの」

「リンクのためにわざわざ買ってきたのよ。感謝してよね!」


目尻の少したれた、女だった

美人ではなかったしブサイクでもなかった。ただ化粧だけは上手いのか、今はナンパぐらいにはあうだろう顔にはなっていたが。

けれどもそれより何より、リンクの自分に対する態度とヴィルと呼ばれた女への態度の違いに腹が立ってしょうがなかった。明らかに、誰が見てもヴィルという女といるほうが、リンクは楽しそうで、嬉しそうで、幸せそうで、

終始笑顔が絶えないぐらいにはヴィルとの時間を満喫していた