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※ぶっちゃけバレンタインじゃなくてもいい


彼が泣いていた。

あの男が、たった一人の女によって泣いているのだ。信じられないという思いでいっぱいだった。だって泣かせた原因である女というのが、まさかの自分であったから。

その白い肌を滑り落ちていく雫は日の光を反射して、きらりと輝いた。

輝く金色のまつ毛は長く、あたたかい印象を覚えるブロンズレッドの瞳には薄くイエローも混じっている。ぱしぱしと彼がひとたび瞬きを繰り返せば、きらりと涙は落とされ、綺麗な瞳はその長いまつ毛と薄い瞼に隠された。

私は困惑したのだろう、だって自分は。


「嫌いとは言ってないよ」


好きではないと言っただけだったのに。

私としては、異性として見ていないと伝えたつもりだったのだ。仲間として好きなことに変わりはなく、それは彼がこれから先どんな過ちを犯したとしても確信が持てることであった。だがジョットは確かに言った。私を「愛している」と。

私は彼を愛してなんかいなかった。けれども本音をこぼしたとて、彼が涙を流すだけ。

一度は差し出された花束は彼の腕の中へと引っ込んでしまい、受け取るべきだったのかしばし悩んだ。


「愛していないのならば嫌いも同然だろう」

「どうしてそう、1か10しかないの?ジョットのことは好き。これは確かなの」

「愛してくれ」

「そもそも私なんかに、なんで・・・・」

「そんなことは考え込まなくてもいいんだ。ななしでなければ俺は、」

「ねぇ、女々しいわ。私一人にそんなに執着することないと思う」


平凡の塊である自分とジョットではあまりにも差があり、どう言い繕ってもそれが埋まることはない。ジョットのことは愛していない。これも、変わることはないだろうと思うのだ。

けれどもジョットはこんな私に愛情を向けてくれるのだから、きっと優しい人なのだと思っていたのだけれど。


「女々しいか・・・・・理解は、してくれないのか?」

「気持ちは理解できても、私はジョットとは違う気持ちだって言ってるだけ」

「ならば奪うまでだ」

「?は、」


突然何を言い出すのかと思えば、ジョットは常に携帯している銃を取り出した。

まさか!そう思って目を見開く。しかし彼は迷うことなく私の左胸を狙うと、うたうように、つとめて穏やかな声色で言ってのけた。ひやりとした衝撃が体中を駆け抜け、喉からはひゅっと小さく悲鳴のようなものが出る。顔から血の気が引いていくのがわかって、本当にこれは現実なのかも一瞬疑った。彼に銃を突きつけられる日が来ようとは。


「うそ、でしょ・・・・?」

「残念だが、ななしを殺そうとしているのは事実だ」

「なんで、落ち着いてジョット!」

「俺は至って冷静だが?」

「冷静なんかじゃない!私を殺すの!?」

「だって、どうしようもないだろう。・・・・愛してるんだ」


止まっていた涙をひとつ。彼は流して、苦しそうにそう呟いた。


「ななしの一生を縛るのは、どうかこの俺だけであってくれ。頼む、お願いだ・・・俺以外の、女でも男でも、君を惹きつける人間はすべて殺してみせよう。許せるものではないから」


君を愛したのはこの俺で、君を手に入れるのも俺だけ。


私は、そこに私の感情は必要ないのだろうと思った。私がジョットを愛していても、愛していなくとも、最終的な結果はあまり変わらなかったのだろう。

再び目の前に迫った花束が、何故か銃口のように思えた。





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