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「ん?大将、何してんだ?」


まな板の上に大量の板チョコを置いて準備をしていたら、ひょっこり薬研が厨に顔を出した。隠すことでもないので笑顔で「明日はバレンタインデーなんだよ」と答える。

バレンタインデーのことを知っているのか少々不思議ではあったが、思った通り知らないらしいので教えた。好意を伝える日だと。ずいぶんと簡略化してしまったが。


「友達には友チョコって言って渡すし、家族にも渡したりするものだよ。明日はそういう日なの。もちろんチョコ以外にもお菓子やら花やら渡したりするパターンもあるみたいだけどね」

「・・・・そうか。それで、大将は誰に渡すんだ?」

「え?一応みんなに。日ごろから頑張ってもらってるしね」


なんでそんなこと聞くのか。薬研はいつも察しがいいからこんなことわざわざ訊いてくるとは思わなかった。

少し違和感を感じて薬研をじっと見つめるが、彼の表情はいつもどおりだ。

チョコを切り刻んでしまおうと手に持っていた包丁をまな板の上に置いて、薬研に問いかける。もしかしてチョコが嫌いとか?今までおいしそうに食べてた気がするけど・・・・


「チョコ嫌い?」

「いや、チョコレート菓子は嫌いじゃないな」

「・・・・・・?どうしたの、薬研」


やはりちょっと様子が変だ。妙な突っかかりを感じる。

訝しげに薬研を見て首をかしげると、突然薬研がまな板の上にあった板チョコたちを鷲掴みにした。ギョッとして薬研の腕をつかむ。何をするんだと目で訴えてみても薬研は答えるつもりはないらしいので、少し咎めるように言葉を紡いだ。


「待って。それはまだこれから・・・・・」

「ちょっと量が多いだろ?」

「は?え、でもうちは刀の数多いから、むしろ少ないと思うけど」

「多くて二枚くらいだな。それ以外はいらないだろう」

「何言ってるの!?って、ほんと待って、なにして・・・・!」


笑顔でつかんだチョコをゴミ袋へと入れ込んだ薬研に、驚くほかリアクションが取れない。本当に突然で意図が読み取れないからだ。

数十枚とあったチョコたちは大量の生ごみに埋もれていった。

そして薬研は楽しそうに声に出して笑った。少し、不気味だ。


「俺以外の奴に渡そうなんざ、妬けるじゃねぇか」


なあ?大将。





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