×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
01


別に見返りなんて必要としていなかった。そりゃあ当然、俺が望むような返答や反応が返ってきてくれたのならば、これほど嬉しいことはないのだろう

けれども、俺が愛した人は人ではなくて、精霊だ。

もっと言ってしまえば、感情もクソもないようなただの剣なのだ

確かに人の形を模ってはいるが、その実態はただの機械のような存在なのである。計算もはやければ状況を察知することも容易い。けれども、本当に複雑なところはファイには存在しなかった。人の感情なんて女神が剣に与えるわけがなかった

でもそんな精霊が俺は大好きで、愛しているのである。


「ファイはいつ見ても可愛いよなぁ」

「ファイは“かわいい”といった人間の対象からは大きく外れている可能性97%」

「じゃあ美人か!」

「一度正気を取り戻されることを推薦します」


ひでぇ。別に俺は正気なのに。いや、きっとファイはツンデレなんだな!可愛いって言われたから照れてるんだたぶん。自信はないけど

そもそもかわいいの意味も辞書どおりにしかわからないファイに、そこでツンデレを発揮できるかと聞かれればそれは微妙なので、絶対に違うことはわかりきっているんだけどさ。

リンクが水浴びをしている間にファイとの距離を縮めようとするも、既に精霊と人とでは距離も何もないので、結局俺が一人ペラペラ喋っているだけに終わった


「エイル、またしてるの?」

「またってなんだよ」

「別に・・・・・・深い意味はないけど・・・」


曖昧に言葉を区切るリンクに俺はタオルを投げて渡す。首をかしげて見せると、リンクは頭を左右に振って俯いてしまった

リンクだってまさかエイルがファイに惚れこむとは微塵も思っていなかったのだ。だからこそ今のこの状況にどう対応していいのかもわからなかったし、リンク自身はっきりとした恋愛をしたことがあるわけではないので、アドバイスやエイルに諦めてもらう方法など思いつかなかった

それに、

エイルはファイといるだけでも幸せそうで、本当に、ファイを可愛い可愛いと愛でるだけで見返りもなにも求めてはいなかった。ただひたすらにファイを愛していた。同じような想いがファイから返ってくるわけではないし、当然、思わせぶりな言葉も好きだといった言葉も与えられはしないのだ

それでも大好きだというのだから、リンクは正直もうお手上げだった

この人は、エイルは、好きな人の隣にいられるだけでいいという、とても男にしては珍しい、慎ましやかな人間だっただけで。大和撫子のような男だっただけで。そう多くは求めない性格なのは知っていたが、まさかここまでとは思っていなかった。もしかしたらエイル自身にも欲求のどこかが、欠けてしまっているのかもしれない


申し分なく、愛は与えるが、

小さなお返しの愛さえも望まず、受け取りもしない


「(エイルが、辛いだけなのに)」


辛そうには見えなくとも、きっと、どこか、苦しいとか辛いとか、思うところはあるだろうに



back