「なぁミドナ。イリアの体の中に、別の人間が入れ替わりで入ることって出来るのか?」
「はあ?」
何言ってんだお前?
そう続けて言い放ったミドナには正直もう慣れたものだが、しかし人の疑問を嗤うのはどうかと思う。ミドナだからしょうがないと言われてしまえばそれまでだが。
リンクは至って真面目に、真剣にミドナと向き合うと、もう一度問うた。
するとミドナはからかおうとしていた態度を改めて、顎に指をあてる。何か考えているようだった。
「本とかでは見るな。勢いよくぶつかった人間と中身が入れ替わるやつか?」
「そんな感じなんだけど違うんだ。ある日突然、イリアの中に知らない男の人格が入ってたとしたら、どうやって入ったんだろうと思ってさ」
「まだあの女の中に男が入ってるとは確信できないぞ」
「でもミドナだってそう考えてるだろ?」
こんな変な話題を突然もちかけてもスムーズに話が進むのだ。それは即ちリンクの思考をミドナが理解しているということであり、リンクの推測は間違ってはいなかった。ミドナは少々苦い顔をしたが、それでも何かしら感じるものがあるのはわかっていたのだ。
イリアではない気配が、彼女からするのは知っていた。ほぼほぼ赤の他人であるミドナでさえ違和感を感じるのだから、リンクが感じないわけがない。
「まるで他人がイリアを守るためにイリアの中に入ってるみたいだ。あの時、イリアをどうにかしてみせるって言ったときも、物の言い方がイリア自身が言うには変なところがあった」
ミドナは悩んでいるリンクの横顔を見つめ、これはしばらく引きずりそうだと溜息を吐いた。
▲▽
ちょっと誰か聞いてくれ。攫われた。
「(もう俺どうしたらいいのこれ・・・・・)」
さすがにこんな経験、イリアとして過ごすことがなければすることもなかったであろうことだ。対処法なんて知らないし、ましてや攫われるなんてこと、あるはずもないと思っていた。しかし残念ながら女子供は非力な部類に入るので、敵が人質として選ぶのならそこに俺も入ってしまうのだ。
村が心配だ。魔物の集団に襲いかかられでもしたらひとたまりもないだろう。
とりあえずイノシシか何かで村から離れてしまっているらしいので、イノシシを操っているであろう魔物の頭を蹴り飛ばした。こいつら馬鹿なんだろうな。どうして太めの棒に括り付けることまで考えることは出来るのに、足元を縛る重要性が考えられなかったんだろうな?不思議だ。
思いっきり蹴り飛ばしたらちょっとグキッて骨みたいなのが折れる感覚がしたけど、俺の足が折れたわけではないので良しとする。問題はここからだった。
イノシシから離れて、棒に括り付けられたまま地面に落下してしまったのだ。まあそうだよな。予想してたけど思った以上に痛かったんだわコレが。
「いてぇッ!!!」
馬鹿野郎!もっとソフトに落とせや!
そう心の中で叫びながら、イノシシが岩にぶつかって気絶したのを見てそちらへと歩き出す。確かあいつら、灯油か何か持ってたはずなんだよなー。さっきからにおいがすごかったし。
それで魔物にかけて燃やせばあいつら死ぬだろ。しかし肝心の手が動かない。
「(敵は四匹か・・・・)」
いけなくもなさそう