冬なのに、どうしてこんなに汗をかくのだろう。
決して多くはない服をまとい、薄い体に熱を溜め込んでいた。足が縺れるほど地面を蹴って一日が終わると、背中が濡れたように滴った。
鳴き出す鳥たちに誘われて空を見上げると、夕映えのせいで頬に赤みが差す。
演習場の出入り口に父の背中を見つけて、駆けだした。父はこちらに気が付くと「ただいま」と言い、「おかえりなさい」と返した。たった二人きりの家族だ。



あともう少しで家につくというところで、あたりから味噌が焦げるいい香りがして、ぐうとお腹の虫が鳴いた。商店街の外れにある小さな弁当屋は、家のすぐ手前にあって、こうして家路につく者を足止めする。

「今日は弁当買っていこうか」

まだ早い時間なのに、買い物袋を持っていない父はきっと最初からそのつもりだったのだろう。
住宅街にひっそりと佇む弁当屋の柔らかい光に引き寄せられるように歩く。


「はたけさん、いらっしゃい」

「こんばんは、今日はなにがおすすめかな?」

「サバの味噌煮はどうですか?」

「いいね、カカシもそれにする?」

父の傍らで頷くと、カウンターの少女は、厨房の店主に「サバみそ2つお願いしまーす」と叫ぶ。
自分と同い年のこの少女はいつも店頭で注文のやりとりをしていた。父が不在の日は一人で弁当を買いに来ることも多く、そのときは雑談することもあったが、父の目の前ではあまり話さない。相手もそれをわかっていて、話しかけてくることはなかった。

ちょっと待っててくださいね、というナマエに父は軽快な返事をしていた。



「ナマエちゃん、いつもお店番してえらいね」

「うん、でももうすぐ忍者アカデミーに入るから夜だけになりそうです」

「え、忍者になりたかったの?」


父が意外そうに聞くと、ナマエは元気よく頷いた。
店主の女性が2つの弁当を運びながら、カウンターから顔を出す。その後ろでナマエがおでん用の大きなカップに豚汁を掬っている。


「急に言うから私も驚いているところなんですよー。正直なところ、忍者さんのことは分からないことが多いもんで」


父と世間話をする店主の女性はナマエの母親で、テキパキと弁当に蓋をした。この弁当屋は、いつも豚汁をおまけしてくれる。
豚汁の入ったカップを型紙のケースで支えながら弁当を袋に入れてくれるので、渡されるときにはいつも「傾けないように運んでね」と言われる。
ナマエが店の表に出てきて、ビニール袋をオレに差し出した。袋を受け取るとき、馴染みの台詞と共ににっこりと微笑む。

「カップに目一杯入ってるから、気を付けてね」

「うん」


ナマエとは同じ年だったが、ほかの同年代の子どもたちのように、ろくに遊んだことはなかった。弁当屋の手伝いがあるからだろう。
店を手伝う姿は自分よりも少し大人に感じることもあり、客に「気を付けて」とにっこり笑うなんて自分にはとてもできないと思った。

右手でビニール袋の持ち手を握り、左手で袋の上から弁当の底を触ると、冷えた手先にジンと熱が灯るようだった。
それを見て、今日は寒いよね、とナマエが言った。

袋からいい香りがして、いっそう空腹を感じる。


店主の女性は気さくで朗らかな人だ。そして、なぜかオレと目が合うといつもウインクしてくる。
それが苦手でもあり、恥ずかしくもあり、母の記憶もおぼろげな自分には世の中の母親はこんな風なのかと思う。


「カカシくん、ナマエのことよろしくね」

「はい」


何をよろしくすればいいのかわからなかったが、空腹のため早く帰って弁当を食べたかったので、すぐに返事をした。









20180110




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