望まぬ触れあい ※

今日もまた、朝がやってきた。
天井から光が降り注ぎ、優しく部屋を照らす。着替えなきゃ。

「おはよう、『巫女様』」

いつ入ってきたのか、シェスが扉に寄りかかっていた。いつも通りの歪んだ笑みを浮かべている。

「…何でいるんだよ」
「さぁ、何でだろうな?」

正直に答えるなんて思ってなかったけどさ。
シェスはにこにこしながら近づいてくる。

「最近、巫女様を拐う輩が出るらしい」
「…ふぅん」
「何だよ、『巫女様』。あんたも狙われてるってことだぞ?」
「こんなところまで来る奴なんていないよ」

シェスから目線を逸らし、ヴェールを目深に被る。
そう、ここは巫女たちが住まう宮殿の中でも最深部に当たる。外を見回すと森が広がり、長い長い、気の遠くなるような廊下を進まないと、宮殿の入り口までたどり着けない。
こんな奥深くに来ることが出来るのは、世話係の女中か、選ばれた騎士のみ。そして此処にいる巫女たちは、ただひたすらに精霊に祈りを捧げ、その一生を全うする。

「分からないだろ?アイルは可愛いんだし…心配だ」

つ、と頬をなでられる。

「…っやめろ」
「おっと」

ぐい、と腕でシェスの手を払いのける。
思ってもいないことを、この男は簡単に口にする。

「はは、相変わらずつれないな」
「外に出ろ。祈りの時間が近いんだ。着替える」
「どうぞ?着替えたら?」
「…シェス」
「今さら恥ずかしいも何もないだろ?…ああ、それとも、」

あっ、と思った瞬間には、天井を見上げることとなった。じたばたともがくが、体格差のせいで抜け出すことができない。

「離せっ」
「着替えさせてほしいんだろ?」
「ちが…っ、んん…ん、!」

顎をくい、と持ち上げられ、キスをされる。
シェスのキスは苦手だ。
呼吸も、心も、苦しくなる。
ぎゅ、と口を引き結んで耐える。

「…」
「いた…っ、ひ、やぁ…っ」

しかし、シェスに唇に噛みつかれ、痛みに口がわずかに開いてしまう。

「…っ、…ふ、ぁ…あ…んん」

くちゅり、と生々しい音が響き目眩がしてくる。くらくらしながら、あとはシェスにされるがまま。不覚にも前が反応してしまう。

「ああ、気持ちよくなっちゃったのか?抜いておくか」
「や、やだ!やめろ…っ」

必死で身をよじるも、簡単に押さえ込まれる。でも、嫌だ、こんな風に流されてばかりは、嫌だ。
するり、と内股に手が伸びてくる。

「…ひゃ…っ、…っ、………やめろっ!!」

ぞわぞわと、何かが這い上がるようなその感覚を振り払うように、俺は、手を振り上げ、むちゃくちゃに振り回す。
ぱん、と渇いた音が響いた。

「…いってぇ」
「…は、はぁ…」
「…あーあ、萎えた」
「…っ」

つまらなそうにシェスは俺の上から降りた。
その蔑むような瞳に、身を固くする。

「で…っ出ていけ!」
「分かったよ」

気だるそうに髪をかきながら、シェスは帰っていった。振り返ることは、なかった。

「…っう、く…っ」

涙が溢れてくる。
俺はどうしたって、シェスが遊びたいときに遊ぶ玩具だ。そしてシェスはいつでも俺を捨て去ることができてしまう。そんな使い捨てだと、痛感してしまう。
思い通りにならなければ、飽きられて、捨てられる。でも、玩具扱いされながら身体を暴かれるのは嫌だ。

どちらにしても俺は近い将来、心を殺されてしまうと、思った。


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