1. 僕を、

「俺のこと愛してくれてるんだよな?だったら、俺がやっていることも理解してくれるだろ。だって、…愛してるんだから」
 男はにいっと妖艶に笑いながら、そっと相手の首に両手を絡ませ…
「馬鹿なんじゃないですか?」
 瞬時に蹴り飛ばされた。
「痛ぇ!」
「自業自得です。それに、誰が、誰を、愛してるって?」
「エルヴェは俺を愛してるだろ?照れんなって!」
「あなたの頭はいつもお花畑なんですね」
「素直になってほしいだけだってー」
 リューンという男は、いつもこれだ。僕の気持ちや言っていることなんかちっとも聞いちゃいない。こうやって毎回揉めるのは疲れてしまうんですけど、そこのところ分かってるんですか?

 *

 ここは緑豊かな国、ナヴェリー王国。精霊に守られた神聖な土地とも言われている。僕は残念ながら精霊を見ることはできないが、特に不自由な思いはしていない(そもそも精霊が見えるのは『巫女』と呼ばれる人たちだけだ)。不自由と言えば…
「エルヴェ!今日も可愛いなっ」
「それ以上近づかないでください」
 このしつこい男が会いに来て、まとわりついてくることだろう。
「僕、男ですからそんなこと言われてもちっとも嬉しくありませんよ」
「照れちゃってかわいーなー」
「話聞いてました?」
 僕もリューンも男だ。それなのに毎回好きだの可愛いだの愛してるだの…ノンケの人が聞いたらぎょっとすると思うんですよね。
 僕ですか?僕はまぁ、ゲイですから、偏見とか侮蔑だとか、そんなものはありません。ちなみにリューンはバイですね。そのことについては何も言うことはないんですが、問題はリューンの性格というか、性癖でしょうか。
「眠れないんだ」
「それは大変ですね」
「添い寝して?」
 リューンはこてんと首を傾げながら涼やかに笑った。あざとい。自分の顔が整っているのを理解してて、それをフル活用しているんです。見目だけ見れば、爽やかなイケメンなんですが、無性に腹が立つんですよね。殴っていいかな。この笑顔に何人が騙されたんだろうか…。
「添い寝なんてしませんよ」
 まとわりついてくるリューンを引きはがし、睨み付ける。
「そんな怖い顔すんなよー。まぁ、そんなところも愛しいんだけど」
「僕以外を誘ったらどうですか。あなたには何人もそういう人がいるでしょう」
「まぁ、誘えば乗ってくれる奴はたくさんいるぜ。でも最近、結局朝まで寝られないことが多くてさ…ほら、激しくて」
「あっち行け」
 ああ嫌だ。どうして夜の事情まで聞かされないといけないんだ。
「エルヴェもヤってみたら病み付きになると思うんだけどなぁ。俺上手いよ?俺、どっちでもいいし」
「真っ昼間から何て話題を振るんですか…」
 リューンは、独りだと眠れないらしい。理由なんて知らないし、知りたいとも思わないが、とにかく、寝るときはいつも誰かと一緒に寝ている。それはそういう『行為』も伴うわけで…僕とも『それ』をしたいという。
ふざけるなと声高に叫んでやりたい。
「俺、昨日寝てないんだよ…こう、ゆっくり眠れる人の隣で寝たいんだ。エルヴェといたら熟睡できると思うんだ」
「は?」
「エルヴェって性欲薄そうだから一回で済みそ、…ごふっ」
「いっぺん死んで来い!」
 こんな男は絶対ごめんだ!
「あああ、待ってくれよエルヴェ。ごめんって、悪かったって。助けると思ってさ、お願い、一回だけ!」
「嫌です」
「そんなぁ」
「仕事がありますので、僕はここで。仕事場まで入ってきたら眉間に矢が突き刺さりますよ」
「怖ぇこと言うなよー」
 文句をまだ色々と垂れ流していましたが、こんな問答に毎回全力で対応していたら身が持ちません。適当にあしらうのが一番です。



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