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関わらないと心に決めた、その決意はその次の日には音を立てて崩れた。

「詠斗さん、詠斗さん!おはようございます!朝から詠斗さんに会えるなんて嬉しい!」「移動教室っすか?俺これから体育っす!」「あっ、詠斗さーん!お昼一緒に食べましょう!」「これから帰宅ですか俺も一緒に帰っていいっすか!いいっすよね!」
「うぜぇ…」
「ひどいっ!」

 無視をするのも到底無理な話なんだ。だって同じ高校なわけだし、俺の顔は知られてるわけなんだし。というわけで、今日は本城に付き纏われ続け、辟易としていた。なんなのこいつ。俺の平凡で地味な学園生活を壊して楽しいのかこの野郎。

「平凡で地味?詠斗さん可愛いから目立つよ?」
「…はぁ?」

 本城は頭が沸いていた。怖い奴だ。

「詠斗さんは自分の魅力を分かってないよ!」
「…魅力?どこがだよ。お前頭大丈夫か?」
「まぁ、俺だけ分かってればいいんだけどさ。他の男に盗られないか心配っす!」
「話を聞け」

 あと、言葉のキャッチボールができない。自分の中だけで会話を成立させているらしい。ますます怖い奴だ。
 これ以上会話に付き合っていては身が持たないと判断し、スタスタと本城を置いて歩き始める。

「あっ、待ってくださいよー!」

 本城も後ろからパタパタと小走りで付いてくる。図体のでかい男が、(不本意だが)小柄な男の後を追うとは、なんてシュールな光景だ。ああ、目立つ。やめてほしい。
 本城は聞いてもいないのに、自分の趣味だとか特技だとか食べ物の好き嫌いだとか家族構成だとか得意教科とかなんとかかんとか…つまるところ、自分のあれこれを一方的に話していた。熱心には聞かなかったが、俺の中で本城のプロフィールが出来上がってしまった。

「俺のことは話さないからな」
「大丈夫!詠斗さんのことはほとんど知ってる!」

 さらっと怖いことを言われた。もしかして住所も割れてるんだろうか。

「詠斗さんが危険な目に遭わないようにいっつも見守ってたから」

 あ、これバレてる。

「だからね、今度は俺のことたくさん知ってね!」
「嫌だ」
「えーっ」
「そもそもなんで俺にそこまで構うんだよ。俺にはそんな魅力なんてないから」
「…」
「…う、わ!」
 
 本城はぐいっと俺の腕を引き、壁に押し付けた。背中が痛い。

「…詠斗さんは分かってないよ。自分がどれほど魅力的で、」
「おい、ほんじょ、」
「…俺の心を掻き乱すのかってさ」

 本城は、とん、と俺の顔の横に手をつき、目を細めた。まるで猛禽類のような鋭い目つきに、身体が動かなくなる。
 あれ、こいつ、こんな顔も、できるのか。

「詠斗さん…」

 ふっと眼前に影が落ちる。目の前に見えるのは端正な顔立ち。あ、睫毛長い。そうして、
おもむろに近づいてきた本城の顔に対して、
ゴツンと、頭突きを食らわせてやった。
 いい音だ。

「いったぁ!」
「何しようとしてるんだ。おい」
「え、キス…」
「電柱とでもしてろ!」

 トドメととばかりに、額を撫でて涙目の本城の脛を思いっきり蹴飛ばしてやった。「うぎゃ」という情けない声と共に本城が蹲る。自業自得だ馬鹿め。

「帰る」
「待ってぇぇぇ」

 そうして、本城との追いかけこっが本格的に幕を開けた。




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