「……何が君を泣かせるの?」
いつも家の窓からみえる海を堤防から眺めながら俺は彼に訊いた。
彼はここが好きで、昔からなにか悲しい事や嫌な事がある度にこの場所に来ては海を眺めている。
だけど今回はいつもと違う。
彼は、泣いていた。
俺は自分の友達が泣いているのを見てしばらく1人にしておこうと思える程できた人間では無いらしい。
涙がおさまるのを待てずに口にしてしまう。
その言葉の温度に「ああ、自分は今怒ってるんだな」とぼんやり理解した。
彼は海から目を逸らさない。
逸らしてしまったら負けだと、そう思ってるみたいに。
「別に」
「俺に言えない事なの」
「別に、大した事じゃ無い」
「じゃあなんで泣いてんだよ」
強くなる語気にビクッと彼の肩が震えた。唇を噛んでいるのが腕の隙間から見える。
馬鹿、と内心自分を叱咤しながら彼の隣に座った。
顔を見られないようになのかとうとう視線は海から外れて下を向く。
その代わりと言うわけでもないけれど、俺は視線を海へと移した。
境目の曖昧な部分から空が広がっている。常に変わり続けているはずのそれらは、どこか不変であるようにも思わせる。
だから俺も彼もこの青が好きなのだろう。
「君を悲しませるものが許せなかった。無理やり聞き出そうとか、そんなつもりじゃなかったんだ。ごめん」
青に触発されるように吐露すると、隣で僅かに笑い声が聞こえた。
「なんで、お前が謝るんだよ」
面白いという意味合いのみを含んだ笑いは、やがて大きなものへと変わっていく。
さすがに面食らって彼の方を向いたまま動けずにいると、彼は息をついて大きく伸びをする。
「ありがとな」
こちらに身を乗り出して笑う彼は、なにかから吹っ切れたようである。
俺はなにもしてないよ、そう言おうとしたら、俺の口の動きに被せるように彼がさーて、と大きく言う。
「俺はなんで泣いてたと思う?」
いつも俺が問うように、彼をいつも悩ませているように。仕返しと言わんばかりに俺に問いかける彼は、悪戯っ子のようである。苦笑を漏らして安心しながら、俺は彼が満足するような回答を考え出した。
海はまだ青いようだから。