「海を空に変えてみせろ、だってさ」
「何言ってんだお前」
ここで会話が終わってしまいそうなくらいバッサリと言われて苦笑する。
スナック菓子を雑に頬張る彼は眉間に皺を寄せてこちらを睨んでいた。
それが苛立ちではなく疑問から来ているものだということは、幼馴染である俺からしてみればすぐに分かる。気圧されそうな仏頂面だが、先日動物が飼い主にじゃれつく動画を見つつ「かわいい」などと呟きながらもこの表情をしていたので、一概に不機嫌であるとは言えないのだ。
その幼馴染なのだから、もちろんこんな詞的なことを口にしたとしてまともな返事が返ってくるとは思っていなかった。けれど俺は会話を終わらせようとはしない。
「心理テストみたいなもんだと思って」
「何が分かんの」
「うーん……じゃあどれだけ心が広い人間かとか」
「じゃあってなんだよ」
「みたいなもんだってば」
しつこいと我ながら内心苦笑したが、あいつはそのくらいで腹を立てたりはしない。仕方ねえなあなんて言って考え出した。こんな奴だから俺と友達でいてくれるのかもしれない。
彼が回答を出すまで窓の外に見える空と海を眺めよう。そう思って視線を移動させたが、すぐに答えは返ってきた。
「海なんて、変えようとしなくても変わっちまうもんじゃねーのか。今みたいに」
青い海と青い空。
海辺の町に住んでいるだけあって見慣れたものだ。寄せる波はあるはずだが、ここからだとその揺らぎがわからない。快晴であればあるほど視界いっぱいに青は広がった。
窓を開けると程よい風が流れ込んでくる季節。今の時期の空は一年で一番青く美しい。濃い青は海との境を曖昧にし、そこにはただ澄んだ青のみが存在しているようである。
「君も存外、ロマンチックなことを言うんだね」
「うっせ」
外の青とは対照的に赤く染まった彼の耳を見ては、まあこういう問答も悪くはないと思うのである。