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問われたことにリヴは返答しなかった。否、返答できなかった。再びサフィールがすきだと、言い放てばいいだけのこと。それができない。言葉が出ていかない。

女の子の心の単純さ。それを知ってか知らずか、ジェイドは勝ち誇るかのように少しだけニッと笑っていた。

リヴには理解が及ばす、なにより不純だらけだとさえ思っていた。クリアな領域を、踏みにじられた感覚。残ったのは、肉を斬って骨まで断たれたような後味の悪さだけ。

「…き……ら…い」

ポソリと言葉が溢れた。

きらい、ジェイドにはそう聞こえた。リヴも彼にそう聞こえてしまっただろうと思い、もう一度口にした。ポーカーフェイスを崩してやりたいと、思って。

すきにならない

その言葉は諦めと彼が心を容易く拐ったことに対する、せめての抵抗。そして後悔した。サフィールがだいすきだから。それを、どうして本人に言わなかったんだろう。

そうしたら、きっと、戻れたはずなのに。



遅れて駆けてきたサフィールは、涙痕のあるリヴをみて驚き、同時にその原因になったであろうジェイドを睨んだ。それをジェイドが更に冷やかに睨み返せば、彼はビクッと肩を震われて少し後退っていた。再び涙を溜めるリヴの手を引いて、サフィールはその場から立ち去ろうとする。

「酷いよ、ジェイド。リヴ泣かせるなんて!行こう、リヴ」

ジェイドジェイドとひっつく彼が、その彼に対して本気で怒っていた。そのいつもと違う光景を、リヴは怯えた。戻れなくなる、不安。安定のないジェンガのように、今にも、崩れていきそうな。サフィールに見られていなかったことの安堵が浮き彫りになればなるほど、居たたまれなくなっていく。

ジェイドに対する、雑念だらけの後悔と、期待。

それを理解するには幼過ぎて、恥ずかしさだけがその身に焼くばかり。恥辱の要因となった人物を避ける方法しか、思いつきはしなかった。

「…きらい」

ジェイドなんてだいきらい。

それが精いっぱいだった。


* * *


思い出せない。
あの日、彼はどんな顔をしていた?

想像すらしたくない。
だって、その場面を切り取ったかのように、その日の表情を浮かべた彼が、

今目の前にいるのだから。


10/1/18up

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