「つっかれたにゃ〜」

「ランキング戦が終わって一段落ついたって感じだね」



ランキング戦終了後、もうほとんどの部員が片付けを済ませて帰宅していて、部室ではスミレに呼ばれていたレギュラー陣が着替えをしていた。都大会までを戦うレギュラーが出揃い、間近に迫った地区予選に向けて、明日からまた練習がはじまる。



「腹減ったなぁ。なぁ越前、どっか寄って食ってかねぇ?」

「いいっスね」

「あ!俺も行くー!」



健全な男子中学生たるもの、何試合もこなせば夕食までお腹がもたない。桃城、越前、菊丸に続いて、他のレギュラー達も賛成の声を上げた。そこに控えめなノックが響いて、手塚が声を返した。



「園田です!今入って平気ですか?」

「構わない」



全員服を着ていることを確認して手塚が返事をすると、失礼しますという言葉とともに、ドアからマネージャーのすずが顔を覗かせた。



「お疲れ様です...リョーマ、ちょっと」

「なに」



すずはリョーマに手招きして、なにやら紙を手渡した。サイズの記入欄があり、上部中央には“注文表”の文字があった。



「レギュラージャージの注文表!サイズ書いて提出してね」

「ふーん、分かった」

「レギュラー入りおめでとう、リョーマ!」



言って頭を撫でるすずに、リョーマは軽く眉間にシワを寄せながら「ガキ扱いするな」と反抗した。



「おう、すず。俺達これからメシ食いに行くんだけどよ、お前も行こうぜ」

「ごはん?みんなで?」

「おいでよ、園田」



桃城と不二に誘われて一瞬嬉しそうな表情をしたすずだったが、すぐ何かを思い出したようで残念そうに言った。



「すみません、今日は帰って家を手伝わないと」

「家?」

「はい、すみません」

「母ちゃんの手伝いなら連絡すりゃあ大丈夫じゃねぇの?」



食い下がる桃城にすずは軽く首を横に振った。



「お母さんじゃなくて、神社の方」

「「「...神社?」」」

「あれ...言いませんでしたっけ?私の実家、神社なんです」



その場の全員が驚きの声をあげた。その驚き様にすずも驚いて、というより伝えていなかったという事実に驚いて、すみませんと苦笑った。



「そんなに大きなものではないんですが、明日ちょっと催事があるので...」

「そ、そうか。大変なんだな」



大石が言うと、すずは大したことは無いと首を振りつつ、でもやはり手伝いに帰らなくてはと誘いを断った。



「ごめんね、桃。また今度誘って」



お先に失礼します、とすずが部室を出て行き、扉が閉まる音が静かになった部室に響いた。



「知らなかったなぁ。家が神社って...」

「越前、お前幼馴染なんだろ?知らなかったのか?」

「...確かすずの父親の実家がそうだった気がしないでもないっスね」

「神社か...そう言われると、園田の雰囲気というか佇まいって、中学生にしては落ち着いてるよね」

「言葉遣いもしっかりしてるしなぁ」



口々に言いながらロッカーを閉め、部室を出ていくレギュラー陣の頭に共通して浮かんでいたのは、恐らく巫女姿のすずであった。




fin.





ランキング戦終了後の部室での一幕でした。

夢主の父親は代々神主を勤める家系の次男。
神道系大学卒業後は神職に就く予定だったところ、突然“本当にそれでいいのか?”と疑問に思い、家を出て友人達と起業、結婚してすずが生まれた後も支社設立等で各地を転々とした後、会社を友人達に任せて実家に戻り、現在再び神職してます。

父方の実家に戻ったのは1年生の夏明けなので、実際に神社で暮らし始めてからはまだ1年も経っていませんが、ちょこちょこ遊びに来たりはしていた模様。
少し厳しめのおばあちゃんと、そのおばあちゃんに仕込まれたお父さんの躾の元、言葉遣いやらなにやらは同学年の子達よりもしっかりしています。

...なんて、込み入りすぎた設定を頭の中で練ったものの、正直本編では全く要らない代物なので、番外編としてお届け。
管理人、巫女助勤のご奉仕をしたことがあるのですが、あの神聖な空気に小さい頃から触れていれば、落ち着いた子が育つだろうなーと思いました。

恐らく本編の進行には関係の無い設定だと思いますので、流していただいて結構です。
もしちらっと見えることがありましたら、そう言えば番外編でそんなこと言ってたなぁ、位に思い出していただければ嬉しいです。


20161008

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