「頑張れ、リョーマくん!」



最初のポイントをとったのはリョーマで、決まった瞬間すずの隣に並んでいた1年生3人が拍手した。どうやらリョーマの応援団らしい。



「行けー!越前!」

「堀尾くんたちはリョーマの応援なんだね」

「えっ、あ、はい。でもなんで名前...」

「一応マネージャーだからね。みんな知ってるよ。1年生の堀尾くん、水野くん、加藤くん」



すずが一人ずつ名前を言い当てると、1年生トリオは驚いて顔を見合わせた。



「僕たち、まだ入部したばっかりなのに」

「入部したてでもなんでも、もうあなたたちは大事な部員だもん。名前くらい知ってるよ。私のことも覚えてね。2年のマネージャー、園田すずです」

「「「し、知ってます!!!」」」

「気をつけろよ、1年。我らがマネージャー様は怒ると怖ぇからな!」

「桃!余計なこと言わない!」

「ほらな、おぉ怖ぇ」

「桃!」



両手を上げて降参ポーズをとる桃城を睨むすず、2年生2人を見て1年生は戸惑い、3年生はまたやってるよと笑った。



「この調子なら、リョーマくん勝てるかも」

「でも、海堂先輩のアレ、まだ出てない」



2球目を構えるリョーマを見ながら、1年生たちは思い思いに話し出す。堀尾の言う"アレ"とはおそらくスネイクのことで、すずはよく観察しているなと感心した。そうこうしているうちにリョーマが2球目を放ち、ラリーが始まった。



「でも、なんでリョーマは右手で打ってるの...?」

「上手い!海堂の逆をついた!」



何往復かした後、リョーマが放ったショットは海堂の逆をついた。が、ボールが向かう先は深めの左サイド。これは海堂にとってはチャンスボールでしかない。案の定、海堂は不敵に笑うとスネイクを放ち、あっという間に1点を返した。



「アレだ、ビデオに映っていた技...」

「やっぱり研究してたんだ?えらいね。あれが薫くんお得意のスネイクだよ」



すずが説明してやると、1年生トリオは驚いた顔をそのまま向けた。



「スネイクって...今の技ですか?」

「そ。リーチの長い海堂だからできる技だ。右足から左足に体重が移動する瞬間にラケットを大きく振り抜き、異常なスピンをかけるショット。」



続いて桃城が詳しく説明すると、1年生トリオはへぇーと声を上げながら、真剣な眼差しで桃城を見つめた。



「あだ名がマムシで得意技もスネイク。とことん蛇なんだよなぁ、あいつ。顔も蛇顔だし」

「桃、一言多い」



せっかく素敵な先輩になりかけたのに、最後にふざけるのが桃城という男である。試合中で海堂の意識がこちらに向かないから良いものの、普段だったらここで喧嘩勃発は必至で、その間に入るのはすずの役目なのだ。



「へぇ、あんな角度で返すんだ」



コートから聞こえてきた声の方に目を向けると、愉しげに笑うリョーマがいた。しばらく海堂と視線を交わし合うと、リョーマは再び小さく笑って、ラケットを左手に持ち替えた。



「やっと戦闘態勢ってわけか」

「...まだまだだね」



構えながら挑発とも取れるセリフを吐くリョーマに、すずは呆れを通り越して尊敬の念さえ抱いた。



「まったく、先輩相手に生意気なんだから」



その後、ゲームは傍目から見れば互角に進み、リョーマは左右に振り分けられる球に食らいついていった。このまま行けばリョーマにもレギュラーに勝てるチャンスがあるかも、そうも思える試合だったが、それこそ海堂のテニス。スネイクを囮に相手を走らせて徐々に体力を奪っていくーーーまるでじわじわ相手の首を絞めていく蛇のようなテニスだ。そうでなくとも、今日は日差しが強く、気温も高い。体力の消耗は激しいはずだった。すずは照りつける太陽に目を細めると、桃城の腕をつついた。



「私、ちょっと部室に行ってくる」



言うとすずは部室に走り、自分のロッカーから団扇をたくさんつめたバッグを取り出した。ついでに小さなクーラーバッグも持って、観戦組の部員達に団扇を配りつつ、注意を促した。



「今日は暑いから、各々熱中症には注意してね。体調悪い人いたらすぐ報告!保冷剤欲しい人は声掛けてくださーい」



返事やらお礼やらが返ってくる中、不調を訴える声はまだなく、部員達の体調はまだ平気なようだった。途中、大石の所に寄ってそれを報告すると、大石は「本当に体調チェックもするところが園田だよなぁ」と呟く様に言った。



「リョーマたちの試合が終ったらすぐに戻りますので、それまでスコア番お願いしてもいいですか...?」

「もちろん。部員達の体調を気遣ってくれるのはいいけど、自分も気をつけるんだぞ」

「はい!ありがとうございます!」



大石に頭を下げてリョーマたちのコートに戻り、レギュラー陣にも団扇を配り終えたとき、試合は1-1。互角状態は変わらないように見えた。


20161002(20161003 修正)



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