昔から整った顔立ちではあったが、最近はますます綺麗になってきたと思う。子供の頃の彼女はとても可愛いかったのだけれど、今は可愛いという言葉よりも美しいという表現の方があっているだろう。

「ディーノじゃない。来てたの」
「よう、毒蠍」

 沢田家の前まで辿り着くと、玄関先でうろうろしていた毒蠍が、こちらに気づき視線を寄越した。手にはケーキらしき物体。久しぶりのポイズンクッキングを前にし、自然と体が強張ってしまう。

「何よ、そんなに見て。食べたいの? リボーンの為に作ったものだけれど、彼ったら照れて何処かに行ってしまって。欲しいのなら一口くらいくれてやっても良いわよ」
「え、遠慮しとくぜ。あいつが妬いたら困るしな」
「あら」

 最もらしい理由をつけて返せば毒蠍は目を見開き顔を赤くした。本当にリボーンしか見えてないんだよなあ、こいつ。
 リボーンが俺の家庭教師をしていた頃ならば問答無用で襲いかかって来たっていうのに、今じゃこんなに普通に接してくる。そりゃ殺しに来るのは恐ろしくて仕方がなかっ たが、こうも変わってしまうと少し寂しくもあった。それは感じ取ってしまっているからなのかもしれない。彼女が俺に興味がないって事を。

 昔から毒蠍はリボーンが好きで、だからその生徒である俺を暗殺する為にやって来たというのは当然承知していた。例え殺し屋と標的という間柄であっても、毒蠍と俺は仲良くやってたと思うし、俺も彼女の事は怖かったけれど普通に好きだった。
 だから、家庭教師の任を終え、リボーンが俺から離れた途端、彼女も黙って消えてしまったのにはショックを受けた。それなりに親しくなったと思ってたのは俺だけだったんだな、と。
 毒蠍と次に会ったのはリボーンが新たに家庭教師を始めたと聞き、ツナの元へ足を運んだ時だった。暫く見ない内に綺麗に成長してしまった彼女と再会し、俺はさらにショックを受け、同時に寂しさを覚えた。
 知らない間に成長して、どんどん変わっていく毒蠍。綺麗になっていく彼女も確かに素敵だけれど、変わらないで欲しいと思う俺が何処かにいる。
 何て言うか、今の俺を説明するならあれだ。妹離れ出来ない兄。その言葉が一番しっくりくる。
 毒蠍に言ったら、なんでお前が兄気取りなんだとポイズンクッキングをお見舞いしてきそうだけど。でも実際、そういう気持ちなのだから仕方が無い。

「上がって待ったら?」
「え?」
「ツナに会いに来たんでしょ。あの子まだ学校だから、家で待っていれば?」
「ああ……そうすっかな」
「これからおやつの時間なの。ママンの作るお菓子は美味しいのよ」

 そう言うと、毒蠍は沢田家の玄関を開く。
 まさかお声が掛けられるとは思っても見なかったので、正直驚いた。今彼女はリボーン探しの途中ではなかったのだろうか。
 もしかしたら、沢田家で過ごしていて彼女は丸くなったのかもしれない。少なくとも、俺に目を向けてくれるくらいには。
 そんな毒蠍の後ろ姿を眺めている今は、不思議と寂しさを感じない。
 まあ良いか、

こんな距離も悪くない



(2011.05.29)


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