オリジナル | ナノ

▽ 放送できなかったところ※


「甲斐、愛してる」


 焔が囁く。いつものことなのに、自覚した途端、それがとんでもなく幸福なことなのだと気づいてしまう。焔は蕩けそうな目でこちらを見てくる。どうして自分は今までこんな視線に耐えられたのだろう。恥ずかしくてたまらず、目をそらしてしまう。

 勢いで好きだなんて言うべきではなかったのかもしれない。
 軽く後悔しているとそれを感じ取ったのか、焔が不安そうにこちらを見る。さすがに可哀想だと思い、もう一度、今度は覚悟を持って言ってやる。

「俺も、好き」

 そうすると嬉しそうに笑う。ちぎれんばかりに尻尾を振っている幻覚が見えた。
 そうか、これが両思いってやつなんだ。
 恥ずかしさよりも思いを告げて喜ばれる嬉しさが勝った。そうか、好きなんだ。そしてこいつは俺を好きなんだ。自覚し始めたばかりの想いを少しずつ理解していく。
 そうすると触れたくてたまらなくなって、焔の唇に吸い込まれてしまう。
 いつもされてばかりだったから、こちらから触れるのは変な気分だったし、すごくドキドキする。

 そういえば今までキスなんてしたことがなかったから、焔が甲斐のファーストキスだ。唇に触れたまま考える。この先どうしたらいいのか。舌を絡ませ合うような、そういうキスをするべきなのか。
 固まってしまった甲斐にの肩に、焔が手を置く。

「――んっ」

 悩んだまま中途半端に開かれた唇を、焔の舌がなぞる。
 焔の舌はすぐには口内に入ろうとせず、甲斐の唇を擽るように舐めている。

「んんっ」

 くすぐったさから唇を離そうとするが、肩に置かれた手が許してくれない。いっそ早く舌を絡め合いたいとさえ思う。だが唇をもう少し開いたところで、表面ではなく唇と唇の間だとか、前歯の表面だとかに舌を這わされる。
 いつも遠慮なく這い回る舌なのに、今日はもどかしい動きしかしてこない。焔はじっと甲斐が動くのを待っているのだとわかってしまう。
 恐る恐る、歯列を撫でる舌に触れる。ぬめった感触は本当だったら気持ち悪いと感じるはずなのに、焔のものだと思えば嫌悪感はない。そういえばいつだって焔とのキスは気持ち良かった。
 舌と舌とが触れ合うとすぐ、それは相手の口の中に戻っていってしまった。誘われるままにそっと追いかけてみる。

 焔の唾液はどこか甘い。味わうと脳が痺れるような心地になる。初めて招かれた焔の口内はそこかしこに焔の匂いがして甘く思えた。
 今度はしっかりと舌が絡み合う。手を握るように。抱き合うように。

「んっ、ふぅ……」

 夢中で舌を舐めていると、甲斐の舌が吸われる。一緒に、口内に溜まっていた、どちらのものかわからない唾液が焔の側へ流れていく。それを嚥下されるとたまらなく恥ずかしくなった。

「甲斐のは甘いね」

 唇が離れ、自分と同じ感想を告げるものだから、なんだかおかしくなってくる。

「甲斐、いい?」

 珍しく不安そうにこちらの了承を得ようとしてくる焔に、頷く。

「………俺も、したい」

 抱き締めて、キスをして、好きだと告げる。そんな風になるなんて夢にも思わなかったのに、今ではそれが自然なことのように思えてくるのだから不思議だった。

「焔、好きだ」
「甲斐、俺も、好き」

 焔の手がシャツのボタンに触れる。もどかしそうに、一つずつ外される。いつものように抵抗をするわけでもなく、かといってただ見ているのも恥ずかしい。こういう時、どうしたらいいのか。自分から脱いだりするべきなのだろうか。
 ぐるぐると考えている間にボタンは全て外され、中のTシャツを捲り上げられる。

「キスしていい?」

 胸に向かって聞いてくるということは、そういうことだろう。

「……いい」

 頷くと、そこに吐息が触れる。まずは触れるだけのキス。右、左、と順に軽く触れられる。それだけで声が漏れそうになるのを堪える。

「ん、あっ………やっ」

 二度目に触れたときはそこに舌を絡められる。
 さっきまで甲斐の舌にしていたように、乳首に舌を絡ませてくる。歯を立てて強く吸われると、放置されているほうの乳首まで尖ってしまうのがわかる。

「あっ……」
「尖ってて可愛い」

  片方の乳首を吸われながら、もう片方の乳首を爪の先でつつかれる。つんつんとつつかれる度に甘い声が漏れてしまう。

「んっ、甲斐のおっぱい、ちっちゃくて可愛いね」

 そう、愛しそうにされても、恥ずかしくてたまらない。男なのに。こんなに乳首が気持ち良くなってしまってこれからどうすればいいのか。
 音を立てて、先端を啜るように吸われると耐えられず、焔の頭部をぎゅっと抱き締めた。

「あ、やだっ……つよい」
「やだ? じゃあやめようか」
「……やめなくていい」

 離れそうになる焔を、胸元に抱き寄せてしまう。はしたないと思うのに焔は嬉しそうだ。

「こうやって」
「――あっ」
「ぎゅって、痛いくらいにつねられても気持ち良くなっちゃう?」
「…………きもち、いい」

 よくできました、と先端を撫でられる。

「んんんっ」

 びくびくと体が震える。達してしまったのだ。下着の濡れてまとわりつ感覚が気持ち悪い。

「脱がせていい?」

 焔が尋ねてくる。

「……いい、からっ」
「甲斐の精液舐めとっていい?」
「も、きくなっ」

 汚れたズボンと下着を脱がされ、白濁に濡れたそれを口に含まれる。

「ああっ……」

 イッたばかりのそこを丁寧に舐められる。ぬめった白濁を舐めとられ、先端にわずかに残ったそれもちゅっと吸われる。達したばかりでそんな刺激は耐えられない。

「甲斐はどこもかしこも美味しい……ここも舐めていい?」

 ここ、と触れたのはまだ閉じている穴で。

「――だっ、だめだっ」

 慌てて焔を引き剥がす。焔は不満そうにしているが、とんでもない。

「甲斐に汚いところなんてないし」
「いや、汚いわ!」

 思わずムードも何もかも忘れて突っ込む。
 信じられないことに、焔は本当にそこを舐めたかったらしい。それでも甲斐が本気で嫌がっているのがわかったのか、諦めてくれた。
 だが今後も油断はしない方がいいだろう。焔が「今日はやめておく」と言ったのを、甲斐は聞き逃さなかった。今日はってなんだ、今日はって。明日も明後日もあるものか。

「じゃあローションでお尻濡らすのはいい?」
「……いいけど」

 今日の焔は一つ一つ、確かめるように許可を取ってくる。
 別にこれまで散々好き勝手してきたのだから、いつも通りでいいのに。そう思う一方で、恥ずかしさだけでない、嬉しさが込み上げてくるのも事実だ。大事にされているのだとわかるから。そんな風にしなくても壊れたりなんてしないのに。
 焔はローションを手のひらにこぼすと、体温に馴染むようにゆっくりと指に絡める。

「ん、あ……っ」

 指が一本、入り込んでくる。
 最初にされた時はあんない怖くて気持ち悪かったのに、今ではそこははしたなく口を開けて焔の指を飲み込んでしまう。

「んんっ……あ、んっ」

 まだ慣らし始めたばかりだというのに早くもっと熱くて太いものでかき回されたいと期待してしまう。
 奥深くに焔のものという証がほしいと、期待してそれを締め付けてしまう。

「もう一本入れていい?」
「い、から……はやくっ」

 頷くと同時に、圧迫感が増す。二本の指が的確に甲斐の弱いところを掠め、中を開いていく。
 弱いところをなぞられては、「気持ちいい?」と聞かれる。素直に頷けばご褒美とばかりに乳首を舐められた。

「三本目、いい?」
「いい、からっ」

 三本の指を中でバラバラに動かされるともう気持ち良くてたまらない。それでもまだ足りなくて、はやく、入れてほしいのに。焔は生殺しのようにゆっくりとそこを慣らしていく。

「甲斐、どうしてほしい?」

 最後は許可ではなく、甲斐の思いを暴かせようとしてくる。

「……焔の好きにして欲しい」

 いちいち許可なんて取らなくても、焔のことを嫌いになったりなんてしない。だからそんなに不安がらなくてもいい。
 甲斐がそう言うと、指が抜かれ、そこに焔のものがあてがわれる。

「甲斐、愛してる」
「…………俺も、焔を、愛してる」

 指とは比べ物にならない、熱いそれが入り込んでくる。
 少しずつ少しずつ入り込んで、やがて中が満たされる。物理的にだけではなく、気持ちまで一杯に満たされてくるから不思議だ。

「――やっと、一つになれた」

 焔がそう告げるので、やっぱり我慢してたんじゃないかと思う。

「違うよ」

 ぎゅっと抱き締められた。

「やっと思い合って一つになれたなって」

 そうやって抱き締められると、ひどく安心して。これまでに焔と体を重ねた時とは確かに違う。

「あ、あっ……ふ、んんんっ」

 焔が動き始めると、激しくされているわけではないのに体中に快感が駆け巡った。

「気持ちいい?」

 囁くように聞かれ、こくこくと頷く。

「き、きもち、いっ」

 素直に答える。好きだから、気持ちいい。焔の背に腕を回し、ぎゅっと抱き締める。たまらなく満たされている。

「甲斐、甲斐、」

 焔が余裕をなくしていく。その背にすがることでなんとか耐える。そうでないと振り落とされてしまいそうな気がした。
 余裕をなくして自分を求めてくる姿が愛しいと思った。

 キスをして、抱き合って、愛してると言い合って。これは幸せな儀式なのだと思う。

「甲斐、一緒にイこう」
「うん」

 答えるとそれまでより激しく奥を突かれる。これ以上入らないと思っていたのに、さっきまでよりずっと深くに焔のものを感じる。
 内臓を食い破られるのではないかと思えた。
 焔が甲斐の名を呼ぶ度に、中が喜んで締め付けてしまう。そうか、自分は名前を呼ばれて嬉しいのか。

「ほむ、ら……っ…………ほむらっ」
「甲斐、愛してるっ」

 愛してる、の言葉で、甲斐はイッてしまった。すぐ後に焔のものが中で弾けるのがわかる。
 体の奥深くに焔のものとマーキングされていく感覚に、達したばかりなのにまたイきそうになる。

「んぁっ……」

 射精が終わると中からそれが出ていく。

「甲斐、好き」

 壊れ物にするように優しく抱き締めて、触れるだけのキスをされた。
 優しく触れては、また離れ、合間に好きと囁かれる。

「俺も、好き」

 体を繋げることも、キスをすることも、触れあうことも気持ちいい。でも好きという言葉はなかなか麻薬のようなものだ。






 一緒にイチャイチャしながらお風呂に入って(そのまま第二ラウンドが始まったのは割愛しておく)スッキリした二人は、ベッドの上に寝転んでいた。先ほどまで精液で汚れきっていたシーツは焔が交換済みである。
 もう今日はしないと告げると、何故か焔は嬉しそうに甲斐を抱き締めて、わかったと答えたが、本当にわかっているのだろうか。

「そういえば、あれ消せよ」

 ふと思い出したのは焔に監禁された時に撮られたビデオの存在だ。正直思い出したくなかったが、だからといってあれを消してもらえないのは困る。
 こうして両思いになったのだから、あんなものの存在は不要なはずだ。

「あれって?」

 それなのに焔は心当たりがないようで、首を傾げる。

「この間撮ってたやつ」
「どんなのだっけ」

 消したくなくて演技しているのかと思ったが、もしかすると違うかもしれない。


「……もしかして、あれ以外にある?」

 それは事実だったのか、焔はにっこりと笑って。


「一緒に見る?」
「――見ない」


 どうしてこんな奴好きになっちゃったんだろうと頭を抱えたくなったが、残念なことに、好きなのだ。

 その後なんとか録画されたものをつきとめて消させようとする甲斐が、逆に焔のコレクションを増やす結果に終わったのは言うまでもない。



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