版権2 | ナノ




「あーあつしくんか」
「だからあつしくんって誰よ!?」
「あつしくんなら確かにスパダリだよね。でもトドあつも悪くない」
「あつしって誰なのよ!?」

しかもお前も他所様まで巻き込んで妄想してるのかよ。うちの腐男子ども、本当に誰かなんとかしてほしい。

「あつしくんってほら、トド松が合コンに誘うのに一番に思いついてた奴だよ」
「…………そうだっけ」
言われてみれば聞いたことがあるような気もしてくるが……いや、そんなわずか数回聞いたかどうかの名前を覚えていられるはずがない。

「それをお前たちはなんでそろいもそろって覚えていられるんだよ!」
「そりゃ、ドライモンスターのトド松が口にした名前だし。しかも、『くん』付けっていうのがポイント高いよね。微妙な距離感がありそうだし。でも一番に思いついたし結局連れていったあたりそれなりに気心が知れてるわけでしょ? しかも一軍。どこで知り合ったのかとかどのくらいの仲なのかとか、そりゃあ、気になるよ」

えっ。
深読みしすぎではないのだろうか。真相はきっと微妙な付き合いの友達の友達とか、そういうやつではないか。
熱く語るチョロ松にはとても言えなかったけれど、おそ松はそう思った。

「でも困ったなあ。このままだとまずいかも」
「なんで?」
「僕はリバとかいけるからあんまりわからないんだけど、こだわる場合逆カプって戦争になるらしいから」
「ぎゃくかぷ?」
「つまり攻めと受けがお互いのイメージで真逆だってこと。聞いた感じだとカラ松も一松もリバは認めなそうだし、このままだと平行線だね」
「はあ……」
「どうしよ……」

こんなバカバカしい喧嘩に巻き込まれて、どうしようはこっちのセリフなんだけど、とおそ松はため息を吐くのだった。






痴話喧嘩になんて首を突っ込むものではない。それでも恋人に頼まれれば、弟たちに『行けよ』と言われれば自ら豆腐の角に頭をぶつけにいくしかないおそ松であった。

「あれ」

ところが、戻ってきた部屋には一松の姿しかなかった。
そのまま様子をうかがっていると一松はこちらに気づいた様子もなく押し入れの方を向いていた。

「カラ松」

あ、久しぶりにこいつがちゃんと名前で呼んでるの聞いた。

「い、一松なんて知らない」
押し入れから返ってきた声はなるほど我が家の次男のものに間違いなく、彼がそこに篭城していることを示していた。お前ら押し入れ好きな。

「これ、俺の知り合いが書いたトドあつ」

そう言って一松は薄い紙束みたいなものを押し入れの隙間に差し込んだ。

「俺は口で語るのは苦手だけど、少しでいいから理解して欲しくて」

……それって理解しないといけないものなんだろうか。

やがて押し入れがあき、中からカラ松が顔を出す。

「…………いちばんはあつトド」

あ、一松が悲しそう。

「でも、トドあつも悪くない」
「……カラ松」


……なんだこれ。

よくわからないままに痴話喧嘩は収束した。俺、巻き込まれ損。




「チョロちゃーん」


愛しの恋人に慰めてもらうことにしたおそ松だった。


「で、兄さんはあつトド派? トドあつ派?」

「勘弁してくれ」






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