短編 | ナノ
昼休みの憂鬱
例えば世界には変えようのない事実がある。俺が男だということだ。
性転換という方法はあるにしても俺が俺である限り俺は根岸文(ねぎし あや)という一人の男だ。手術する気も、ニューハーフになる予定もない。
わりと平均的な身長にごく普通の顔立ち。間違っても女装が似合うとか学ラン着てるのに痴漢されるとかそういったタイプではない。
世間に溢れかえっている至極普通の、「ノーマル」に分類される──いや、分類する必要もない。ただ異常と見られる長所ないし短所(顔の造りも含む)がないものをそのままにしておいたら、いつの間にか出来ていた。そのくらい有り触れた、つまらないものだ。
その俺が、野郎に愛を囁かれるなどという非日常に足を踏み入れることになった原因は何なのだろうか。わかるものなら過去を変えてやるのに。
「せんぱーい」
きた、口に出すのも悍(おぞ)ましい生き物。
「………」
とりあえず無視を決め込むことにする。
「せんぱい、俺、せんぱいが好きなんです。今日こそお付き合いOKと言ってください!!!」
「…………」
ああ、うるさい。
最初はとにかく死ぬんじゃないかというくらい驚いたがこれが日常の一部として組み込まれてしまえばなんということはない。喧しいだけだ。
一々気にかけていると心臓が幾つあっても足りやしない。
その証拠に、二週間前には「付き合ってやれよ、あやちゃん」なんてふざけた野次馬が声をかけてきたのに、今では皆俺と後輩を見ないように会話を聞かないように必死である。
「おれ、本気なんです!!」
おっと、こっちも必死だ。
友人であるナギから借りた漫画に視線を向けながらそんなことを考える。
――俺も一応必死
「どのくらい本気かというとですね──」
……そろそろ始まるな。
閉じろ、俺の耳。
物理的には閉じなくてもいい。ただこの男の声だけを俺から遠ざけてくれ。
そんなことを考えながら漫画を凝視する。
「──先輩のならフェラできます。というかしたいです。させてください。
あ、でもどちらかというと舐めて欲しいかも。先輩が頬染めながら舐めてくれたら俺もうそれだけで我慢できなくなっちゃいます。顔を精液まみれにした先輩、可愛いだろうな」
…………
「……でも先輩エロすぎて皆が放っておかないんじゃないですか。この教室にも先輩狙いのやつが何人いることか。男は皆狼なんですよ!」
………たぶん教室にいる全員か首を振った。
誰かこのセクハラ野郎をどうにかしてくれ。
そうこうしているうちにチャイムが鳴った。後輩は名残惜しそうに教室を出ていく。
………どうやら今日も無事に乗り切ったらしい、俺。
「アイツも変わってるよなあ」
ナギが声をかけてきた。
「ホントにな」
「お前も十分変わってるけどな」
失礼な。俺は普通の男だぞ?
やつのいなくなった教室に足を踏み入れる。
いや、正確には出たのだ。──ずっと入っていた掃除用具入れから。
「掃除用具入れに入るのが趣味の男は普通と呼ばない」
狭い所が落ち着くのは十分普通だと思う、と答えたら親友からは何も返ってこなくなった。
あー、アイツ明日も来るのかなあ
‐END‐
言葉責めというかいかに台詞でエロさを表現するかということに挑戦したくなり撃沈した話。打ったのは半年前ですが問題の台詞のみ修正してみました。
ナギ君は気に入っているので彼視点で何か書こうかなあと書きかけているところで止まっています。機会があればきっと。
この二人がくっつくかは不明ですがきっとくっつくんだろうなと思います。
わんこな後輩攻めは素晴らしい
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