短編 | ナノ
2/8(木)
たぶん俺はその時ひどく酔っていたのだろう。そうとしか言いようがない。
今、目の前のベッドを占領するようにして眠っている一人の青年。その、時折ぴくぴくと動く長い睫毛を見ながら俺は溜め息を吐いた。
俺の名前は平岡正彦。
職業はしがない……というと周囲から白い目で見られるサラリーマン。そんな普通よりほんの少しだけ収入の多い会社で仕事をしている。
今日も会社から帰ってくる途中に寄り道をして、ほろ酔いというよりはだいぶ酔いが回りきった体でふらふらと夜道を歩いていた。
自宅マンションのゴミ捨て場に通りかかった時、奇妙な物が目に入る。
いつものことではあるが夜のうちに並べられたゴミたち(勿論朝以外に出すことはマナー違反だ)。
その上に、一人の男が捨てられていた。
倒れていたという方が正しいだろうか。無数に並んだゴミ袋の上に両の手足を投げ出している。
そっと近くまで寄って顔を見る。息はしているようだ。
「おい、こんなところで寝るな」
声をかけてみたが起きる様子はない。
代わりに長い睫毛が僅かに揺れた。
「……………起きろよ」
普通、俺はこんな場面に出くわしたら素知らぬふりを決め込んで家に帰る。女の子ならまだしも、男だから外で一晩過ごしたところで身の危険はないだろう。
しかし何故かこのままではいけないと思えた。
(嗚呼、あれか)
俺の隣に住むゲイの青年。ゴミの上の男はその隣人の好みにぴったりだったのだ。
(………うん、かくまってやろう)
そして俺は気まぐれな親切心を出したのだった。
(だからってなあ……俺の寝床どうしよう)
そしてゴミ捨て場で拾った青年は俺のベッドで眠り続けている。そのことのおかしさに気付いたのは玄関に彼を運び入れたときで、漸く醒めた酔いと共に猛烈な頭痛を与えた。
お節介。そんな言葉では片付けられない奇妙さだ。
拾ったものには最後まで責任をとらなければならない。だからこそ仕方なく俺のベッドには寝かせたが、起きたら帰ってもらおう。厄介なことに巻き込まれる前に。
しかし俺はどこで寝ればいいんだろう。客間なんてないし余分な布団もない。
そんな時、青年の眠るベッド(本当は俺のだ)の足元に、頑張って丸くなれば眠れそうなスペースがあるのに気付く。
「………」
どうやらまだ酔っていたらしい。俺はそのままそのスペースに崩れ落ちた。
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