彼はそれを愛と言った | ナノ
4周年記念
「……タカ」
「うん?水族館でしょ。いいよ、明日行こうか」
「鯨は」
「もちろん、いるところだよ。キヨ鯨好きだもんね」
中江喜代史はそれほど多くを語らない。だから、曽村高里は言葉を汲み取る。
しかし高里はそれを面倒とは思っていないようで、むしろ自然にそうしているようだった。
それは「恋人」故か「幼なじみ」故か……。
羽村真琴はそうして仲の良い二人の様子を眺めていた。
真琴が二人と友人になったのはそう昔のことではない。真琴の恋人が(悲しいことにこちらも男である。この学校のホモ率は不思議すぎるほどに高い気がする)喜代史に話し掛けたことがきっかけだったと思う。
と、その恋人、野村章吾が口を開いた。
「お前らってさ、熟年夫婦みたいだよな」
野村……それ学校で言うことじゃないって…
喜代史は顔を真っ赤にしたが、高里は嬉しそうに笑っている。そんな様子にクラスの女子が黄色い悲鳴をあげる。
「可愛いータカくん」
「中江くんもテレちゃって……」
「私もタカくんみたいなお嫁さん欲しー」
なんだとお前らうちの野村の方が可愛いに決まってるだろうが。
口にしかけた言葉を飲み込んで、ちらりと高里を見る。
真琴は知っていた。あの少年の恐ろしさを。
可愛い、なんて見かけだけ。中身は悪魔のようなやつだ。……というのは友人として言い過ぎだが、兎に角その外見と中身のイメージの差が大きい。
高里の苦手なところといえばその嫉妬深さだ。喜代史が自分や野村に笑いかけたり、一緒に出かけるようになり始めた頃、牽制してきたことを思い出す。
兎に角、彼らが熟年夫婦に見えたとしても高里が「お嫁さん」というのは間違いだということを真琴は知っていた。
「野村」
「ん?」
「俺達もその……いつか一緒に暮らそう」
「おう!」
章吾は弟たちによく見せる「兄」の顔で、「お前の1人や2人、ちゃんと食わせてやるからな」と笑った。
……なんか違うんだけどまあいいか。
‐END‐
- 34 -
[*前] | [次#]
ページ:
TOPへ