ダメダメ戦隊 | ナノ
第3話 敵の居ない日
「ねーおにいちゃん。えこれんじゃーってなに?」
「んー、それはなあ……」
敵の居ない日
福島蒼は公園のベンチに腰を下ろし、傍らに座る子どもの話を聞いていた。
「まずさっきからあそこの鉄棒で懸垂してるお兄ちゃんがいるだろ?」
「うん」
「顔にお面つけてるだろ?」
「ようれんじゃーのれっどのだね!!」
「そう。そのヨウレンジャーのレッドのお面をつけたお兄ちゃん」
あれがリーダーだと告げながら蒼は欠伸をした。
「りーだーはなかまのためにいのちをすてるんだよね!」
「いやいや、命なんて捨てないだろ」
「えー」
「ヨウレンジャーじゃなくてEコレンジャーなんだから無茶言うなよ」
たしかにレッドには変に熱血なところがある。仲間をかばって死ぬ…という展開も考えられなくはない。だが彼は致命的なまでに馬鹿なのだ。もしそんなことがあったとしても守った仲間を巻き込むだろう。
それが確信犯にならないところが憎めず、また困ったところなのだが。
……というか、まずそんな事態にはならないと思う。
「じゃあいえろーは?」
「ああ…あそこのブランコで逆立してるやつのことか?」
「ぶらんこ?………ぎゃっ!?」
言われるままにブランコを見た子どもは短い悲鳴をあげた。
そこにあったもの。それは、ヨウレンジャーのお面をつけたままブランコで倒立するイエローの姿だった……
黒のタンクが捲れ、ほどよく引き締まった腹筋がこちらを向いている。何と言うか、セクハラとトラウマのダブルパンチを喰らう光景だ。
それでも、呆けたように口を開いたまま言葉を漏らした子どもには感心してしまう。
「だいじょうぶなの?」
それはイエローの頭の中について言っているのか、あの危険な状態に対して言っているのか。どちらにしてもまあ「大丈夫」と言っていいだろう。
少なくとも彼らに被害はない。
「おにいちゃん……ぐりーんは?」
子どもの声には先ほどまでの好奇心よりも、すがるような何かが含まれていた。
可哀想に、と思いつつもいいかげん面倒になってきたので無言で向こう側にあるベンチを指差す。
「………おにいちゃん……」
「服に関する疑問は受け付けない」
「ふりふり……」
お面をつけているくせに、服装は白レースで鮮やかに彩られたファンシーなロリータである。蒼にはゴスとロリータの違いが分からないのだが、本人曰くそれはロリータらしい。
で、そのグリーンは服に埃がついたと言って一人で怒っている。公園のベンチに座れば当然だと言えようが、蒼にそれを教えてやる理由はない。
「……………ぴんくは?」
子どもの声は、完全にすがりついているように聞こえた。
「あのおっさ……お姉さん」
ちょうど近くを走っているピンク色のチャイナ服――Eコピンクを指差す。
「おっさん!?おっさんなの!?」
「……静かにしろ。あれはお姉さんだ」
「で、でも……」
「お前は死にたいのか!?」
幸いピンクにその会話は聞こえていなかったらしく、彼――彼女は機嫌良さそうに駆けていった。
そういえば走ったことで痩せたのだと言っていた気がする。
「……おっさん」
「忘れろ」
子どもにそうアドバイスしてから、蒼はベンチから立ち上がった。
「…………あれ?」
子どもは不思議そうな顔でベンチの下に落ちたお面を拾いあげた。
「おにいちゃん………これ…」
「あ、俺のだ。サンキュー」
そのお面は勿論ヨウレンジャーの、ブルー。
「ねえ、おにいちゃん」
「何だよしつこいな」
「あのひとたちはなにしてたの?」
「訓練」
「………おにいちゃんも?」
「俺はサボってたに決まってるだろ?」
子どもは何だか絶望に包まれたような表情でうつ向いていた。可哀想に、と思った蒼は自分がその原因の1つであることを知らない。
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