あめふりおむかえ(伝勇伝・シライ)
2020/05/21 02:22
「雨、だなあ」
天気予報では雨が降るなんて言ってなかったのに、降り始めた小雨。まだ濡れて帰るのも我慢できるかな、というくらい。
ふと携帯を見れば都合よく傘マークを主張している。ちょっと前までは雲だったくせに。
せっかく今日は2時限で終わりで、久しぶりにライナと遊びにでも行こうかなあなんて考えていたのに。
仕方ないからDVDでも借りて家で見よう。ライナの見たいものがあるかはわからないが、まあ、シオンの好みでもいいだろう。
ライナにとってはせっかくの休みだし、少し寒いし、何より雨だし。きっと彼は家出毛布と仲良く昼寝中に決まっているのだ。晴れていればそこを無理やり叩き起こして。買い物だとか映画だとか、別にしたいことがあったわけではなかったけど、そういう風に過ごしても良かったと思ったのだが。
雨、である。
ライナのめんどくさがりがうつったかなあとシオンは思った。家でライナとゴロゴロしながらDVDでも見て、それだけでもう今日らいいかななんて考えるようになったのだから。
昔だったらどうしてたかなんて、うまく、思い出せない。
ライナと出会う前の自分はどうやって生きていたのだろう。
「よう」
気だるげな声に振り返ると、見慣れた寝癖頭。
手には、傘を、2本。
「ライナ」
「雨、降ってるからさ」
ライナがそんなことするなんて雨が降るんじゃないだろうか。
いや、雨は降ってるわけで。降っているからライナは迎えに来たのであって。でもライナが迎えに来るなんて雨が降るんじゃないだろうか。
「なんだよその顔」
少し不満そうにこちらを見る目も可愛いなあ、なんて。
「べつにー」
シオンがライナに影響されているなら。
ライナだって、少しはシオンの影響を受けていて。
そうして変わっていくのは意外と楽しいことなのではないだろうか。
「あ、DVD借りて帰ろうよ」
「めんどいし寒いからとっとと帰る」
「なのに迎えに来てくれたんだ?」
「…………」
鞄の中に折りたたみ傘。今日は忘れたことにしよう。
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