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嫌いだったらとっくに突き放してる(ヴォイライ)
2011/03/24 00:47


 ※学パロ



ライナ・リュートがその日をバレンタインデーだと気づいたのは朝のことだった。
目覚まし時計の音で起こされて欠伸を噛み殺しながら食卓へ向かうと、母が父にチョコレートを渡していたのだ。何年経っても仲睦まじいのはいいことだが、その時ばかりはライナも困った。
それとなく物音を立てるとこちらに気づいた二人が息子に見られたことを気にした様子もなく「おはよう」と言ってきた。

その日最初のチョコレートを母から受け取り、高校へ向かう。歩きながらもうとうとし始めて、目を閉じながら歩く。
バレンタインデーか。クラスメイトがやたらとチョコレートを貰いそうだな、とか。アイツはだんごにチョコレートをつけるだろうか、なんてうとうとしながら考える。
そうしてぼうっとしていたら、スカートが目の前で止まった。
知り合いかと思ったが高校の制服とは違う。近くの中学の制服だと気づくと同時に、それが顔見知りであることに気づいた。

「……ヴォイス?」
「あ、ライナさんおはようございます」

たしかヴォイスは男子中学生だったと思うのだけれど。



緑色に深緑のチェックが入ったスカートはやや短くて、紺のソックスに包まれた細い足やむき出しになった白い太ももまで見える。
細くて赤いリボンが見える胸元が平らでなければ、女性と見間違えるレベルで、美少女だった。
いや、まだ中学生ではあるし、胸元が寂しくても不思議はない。だがヴォイスは男だ。

……なのに、どうしてスカート?


「だって今日はバレンタインデーじゃないですか」

美少女にしか見えない少年がにこりと笑う。
彼女――いや、彼はそう言うと鞄からラッピングされた可愛らしい箱を取り出すと、それをライナの胸にぐいと押し付けた。

「へ?」
「チョコレート、ですよ」

ほんのり朱色の唇が弧を描くのがなんとも女性的で、直視できない。
恥ずかしいというのとは違う。ただ、少年がそういった格好をしている理由がなんとなくわかってしまったというか。少なくとも原因が「誰」かわかってしまったから。

「可哀想なライナさんにチョコレートをあげようと、ライナさんの大好きな女子中学生の制服を着てきたんですが、お気にめさなかったですか?」
「お気にめすか!?」


……やっぱりか。


「ライナ先輩、付き合ってください」

にこりと、人のよさそうな笑みを浮かべる。
普通の人間ならまず騙されてしまうだろう。だって見た目は美少女でしかない。
それでもライナはそいつが男で、しかも中身がとんでもないということもよく知っていた。知っていて、押し付けられたチョコレートを手にする。

ヴォイスが驚いた顔を見られたので、まあいいか。






「で、デートはいつにする?」




嫌いだったらとっくに突き放してる
(むしろ、その逆)








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