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おしおき(スイライ)
2012/01/13 00:37

元々、頻繁にトイレに行く方ではなかった。

朝起きて行ったらあとは夕方まで行かない、なんて日もあるくらい。だって面倒だし。あんまり行きたくならないし。飲み物もそれほど沢山飲まないし。
そんなことを言うと彼は体に悪いから行かなきゃ駄目なんて言ってくるのだけれど。うとうとしながら聞き流すのがいつものこと。
だけど、それを後悔する日がやってきた。



「…………」
今、何時だろう。浴室には時計がないものだからわからない。服は着たままだけれど腕時計なんてものもしていないし。
スイはいつもしているからわかるのだろうけれど、なんとなく聞き出せる雰囲気ではない。
にこにこと笑っているのに、どこか怖い。
浴室から脱衣所に出るためのドアを背に、ずっとにこにこ笑っている。
結構長いことここでこうして向かい合っている気がするのだけれど。スイは飽きないのだろうか。
にこにこ笑ってライナを見たまま。
ライナはさすがにこの状況では寝るのもどうかなあと思ってそんなスイをおそるおそる眺めている。いや、本当はもう寝たのだ。ちょっとだけだったけれど。乾いていたからタイルに座り込んで、風呂桶にかけられた蓋に手をやって、熟睡。夢も見なかったなあ。
でも、目を開けても状況は変わらなくて。
目を閉じる前と同じにこにこしたスイがじっとライナを見ていて。
……やっぱりスイは怒っているのだろうか。
きっと怒っているんだろうけれど、どうして怒っているのかがちっともわからない。だって何も言ってくれないし。
ここに連れてこられてどのくらい経ったのだろうか。浴室には窓もないし、外の様子も分からない。電気が点いているから明るいけれど今が夕方なのか夜なのかわからない。もしかしたらもう朝になってしまっているのかもしれない。
「……怒ってる?」
おそるおそる、聞いてみる。スイはにこにこしたまま「何で?」と言った。それがわからないから聞いているのに。
「うん、まあ、怒ってるかもね。少しだけ」
「…………」
「だから、お仕置きしようかなって」
「へ」
それで浴室に閉じこめられているのだろうか。
いや、だから、なんで怒ってるんだよ。
そう思ったらシオンと仲良くしていたのを見たのだとか。仲良くっていったって、スイとは学校ではただの先生と生徒なんだから仕方ないと思うのだけれど。シオンはクラスメイトで一応親友だし。
でも恋人はスイだけだし、しかも一緒に暮らしてるんだし。友達と仲良くするくらい別にいいじゃないかと思うのだけれど、スイは嫌らしい。
嫉妬するのが駄目とは言わないけど、お仕置きされるのはたまったものじゃない。
「……悪かった」
仕方なく謝ってみる。
スイはやっぱりにこにこしたまま。
「うん」
「だから悪かったって」
「うん」
「あとで……いうこときくし」
「うん」
にこにこにこにこ。
「だから、そこ、どけって」
「何で?」
何でって。
思わずまたタイルに座り込む。
足が落ちつきなく動く。
じっとしていられなくてもぞもぞする。
「どけって」
「だからなんで」
 なんだかひどく意地悪だ。
「……レ」
「うん」
「トイレ、行きたい」
「うん」
 にこにこにこにこにこにこ。

「だから、ここですればいいんじゃない?」

 神様このにこにこしてる馬鹿野郎を土深く埋めてもいいでしょうか。いいよな。うん、いいよな。
 いや、たぶん聞かなくても神様ならきっと許してくれる。だって神様だし。スイは酷いことをにこにこしながら言うし。何も殺そうっていうんじゃない。ただ生きたまま土に埋めてしまいたいだけだ。そのまま窒息してしまえとかそんなことは思っていない。
 そんなことを思っても事態は変わらない。だってここは浴室で。つまり室内で。土なんてどこにもないのだから。
 もぞもぞし続けるのもそろそろ限界だ。最後にトイレに行ったのは朝だし。こんなことならスイの言うことを聞いてもっとトイレに行く癖をつけておけばよかった。面倒くさがっているとろくなことにならないじゃないか。
 そんな後悔を今更したところで何もかも遅くて。
 というか尿意を抑えようとそこをぐりぐりしていると何だか変な気分にもなってくる。もうどうしたらいいのだろう。
「ね、自分でシてるみたいだね」
 スイが相変わらずの笑顔で言ってくる。本当に死ねばいいのに。
 もぞもぞ。
 いつお漏らししても大丈夫なようにお風呂に来たんだよと言われたら本当に殺意しかわかない。でも、たとえばここからトイレに連れ出してくれるならこんな酷いスイでも大好きになるし、悲しいことに元々大好きなのだけれど。
 もぞもぞしているだけでは耐えられなくなって、そっと手を伸ばす。少しだけ力を込めてそこをせき止めるように握れば、空気が鼻に抜けて変な音になる。それを見て、聞いて、スイが楽しそうにする。
「もれ、る」
 せめて服を脱ぎたい。あとスイを殴りとばしたい。
「うん」
 だけどスイはにこにこしてるだけ。
「じゃあ自分でシてみて?」
 この、鬼。

 このまま服を着たまま漏らすのと、服を脱いで排水溝に向かってするのと、スイの言うことを聞くのと。いくつか浮かんだ選択肢の中でスイが選ばせてくれるのはたった一つだとわかっていたから、ライナはいやいや言うことを聞くことにした。
 ズボンのファスナーを下ろそうとすると「あ、着たままでシてね」なんてマニアックなことを言ってくる。なにこの変態野郎。仕方なくファスナーにかけた手を離す。
 尿意を我慢するためにそこを握りしめるのが妙な快感になって困る。強く握って痛いくらいなのに、我慢するのが気持ちよくて。あぐらをかいてぐりぐりと踵で刺激する。
「ん、ふぅ……」
 まだ自慰を始める決心はついていなかったはずなのに、いつの間にか始めてしまっているような。
 そのまま快楽だけを追い求めたくなるのだけれど、少しでも気を抜くと決壊しそうになる。はやく、イって、それからスイに許してもらってトイレに行って。
「あ……ぁ、」
 イってしまいたい。けれど、駄目だ。果てたら、出る。違う者も出てしまうに違いない。
「スイ、もう――」
 許してほしくてスイを見るけれどスイは笑ったまま。
 もう、さっさと殴ってここから出てしまえばよかったのに。



 あ、と思った。思っただけでなくて小さく声に成った。
 ぎりぎりまでの我慢が不意に解けた。それで、嫌な音がする。静かな浴室に響き渡る音。同時に泣きたくなるような開放感。
 そんな瞬間を見られたくなくてすがるようにスイを見上げるけれど。にこにこしながらじっとこちらを見ているスイが見えただけだった。
 下着から溢れたものが一気にズボンに染み込んでいく。こんなに温かいんだなとのん気なことを少しだけ考える。濡れた下着とズボンが重く肌に張り付くのが気持ち悪い。
「……ふぇっ」
 子供みたいに泣きだしたくなって。目には涙が溢れてきて。全部全部スイが悪いのに、どうしてこうなったのだろう。高校生にもなっておもらしなんて。
「スイの、バカっ」
 泣きながら言うとスイは困ったように笑ってライナの頭を撫でた。
「ごめんね、ライナのこと好きだから、いじめたくなっちゃうんだ」
 そんな言葉で許せるわけがないのに、別れることができないなんて。
 




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