ヘンゼルとグレーテルが(ライクラ)
2011/11/05 22:13
※ライクラ目指したけどライクラライな何か
※スパークでペーパーとして配布させていただきました。
※童話パロ的な何か。
昔々、森の奥深くに二人の仲の良い兄弟が暮らしていました。
兄の名をクラウ。弟の名をライナ。二人ともまだ幼く、だいたい十歳前後といったところでしょうか。
二人には他に身寄りがありませんでしたが、それでもそれなりに幸せに暮らしていました。
そんな仲の良い二人っきりの兄弟でしたが、ある日大きな喧嘩をしてしまいました。そして弟は家を飛び出してしまいました。
とはいえずっと家出するつもりもなく、兄をそれなりに心配させ、反省したところで帰るつもりでした。なので、ちゃんと帰れるようにと、兄の集めていた白い小石をこっそり持ち出して、目印において歩きました。
夜も更けると、弟は一度家に帰るかと、来た道を振りかえりました。すると白い小石が月明かりに反射してひときわ白く輝いていました。
おかげで道に迷わずに家までたどり着けました。弟は窓からそっと家の様子を確認しました。
家の中には兄が一人。寂しそうにしているのかと思ったけれど、案外普通の様子でした。
反省しているなら帰ってやろうと思っていた弟でしたが、それを見てやはり家に帰るのはもう少し先にしようと思いました。
さすがに森の中で夜をあかすつもりにはなれなかったので、弟はそのままこっそり家の中で眠りました。
翌朝、兄が起きてくる前に家を抜けだします。あの小石をたどって昨日行ったところまで行こうと思ったのです。
ところが、石はどこにもありませんでした。
弟は困ってしまいました。それでもすぐに自分がパンを一つ持っていたことを思い出します。これをちぎって落としていけば目印になる。そう思った弟は小さくパンをちぎって道に落としていきます。兄に見つかったら怒られそうでしたが、今は喧嘩しているので関係ありません。
そうしてずんずん森の奥に進んでいきます。森の中はもう昼すぎだというのに薄暗く、不気味でした。けれど弟は好奇心いっぱいで、そんなこと気にならなかったようでした。
夜になり、そろそろ帰ってまた兄の様子を見てみようと思った弟でしたが、振り返るとそこにパンくずはありませんでした。
暗いせいでしょうか。目を凝らして探します。もと来た道を少しだけ戻って探します。どこにもありません。
あ、と声をあげました。
少し先で鳥が、パンくずを食べていたのです。
……さて、これでは本当に家に帰れません。少なくとも、今日は森の中で夜をあかさなければならないでしょう。
弟は困った顔で辺りを見回します。
どこかに、安心して眠れる場所はないでしょうか。
すると、さすがはご都合主義な童話の世界。一軒の家がすぐに見つかったのです。弟はドアをノックしてみました。反応はありません。
「ごめんください」
声をかけてみました。反応はありません。
ドアノブに手をかけると、簡単に回りました。
「おじゃましまーす」
返事はありませんでした。
きっとこの家の持ち主は留守なのでしょう。もしくは空家なのか。綺麗な家出したから空家とは思えませんでしたが、弟はここで一晩だけ眠らせてもらうことにしました。持ち主が帰ってきたら訳を話せばわかってもらえるでしょう。
そうして弟は、ふかふかのベッドで眠りました。
さて、弟はもちろん知るはずもありませんが、ここは魔女の家。一見何の変哲もない一軒家ですが、恐ろしい魔女の住む家なのです。
そんなことも知らずにすやすや眠る弟のところに、魔女が帰ってきます。
魔女はベッドに眠る弟を見ると眉をひそめました。
せっかく遠くにできたというだんご屋に行って、だんごを買おうと思ったのに店が定休日だったということで、元々機嫌が良くなかったのです。
そこで、魔女は弟にひたすらだんごを作らせ続けることにしました。
そうして、弟は目が覚めたらだんごを作ることになっていました。
しかも恐ろしい魔女がひたすらおかわりを求め続けるのです。お前そろそろだんご以外も食えよと言いたくなりますがそんなことを言えば殺されそうな勢いで剣を向けられます。
いいかげん家に帰りたいのですが、帰してもらえません。
可哀想な弟は大好きなお昼寝の時間を削らされてだんごを作り続けます。そろそろ兄にも会いたくなってきました。喧嘩をしてしまって悪かったかもしれないなんて思いもしました。今頃心配してくれているでしょうか。さすがに、こんなに家に帰らなかったのは初めてです。
なんとか隙を見て逃げ出そうとはするのですが、魔女は何故かいつも家にいます。出かける時もありますが、魔女の家のドアは中からは決して開けられないのです。
困り果てた弟は今日もだんごを作っていました。魔女は遠くの町にできたというだんご屋にだんごを買いに行っています。ただし、帰ってくるまでにだんごを用意しておけと言われ、ノルマも決められているので、サボることもできません。
泣きたくなりながらだんごを作っていると、ドアが開きました。
ずいぶん早く帰ってきたものです。弟は「おかえり」と口を開き、そのまま口を閉じることができなくなりました。
そこには、懐かしい顔がありました。
「クラウ?」
「……探したぞ」
兄が、そこに、いたのです。
「あの魔女が……」
「だから、だんご屋のチラシ入れたんだろうが。さっさと帰るぞ」
魔女が出かけたのは遠い町。まだまだ帰ってくるには時間がかかるでしょう。だから、と兄は弟の手を引いて魔女の家を出ました。
「クラウ、その……」
「悪かった」
「え」
「悪かったよ。だから、帰るぞ」
正直、弟は、兄が謝るなんて夢にも思っていませんでした。だって兄です。意地っ張りで、自分を曲げない人です。それなのに、こんなにあっさり謝って。迎えに来てくれて。
「――ありがと」
「…………」
兄が手を引いてくれると、暗い森も普通の道と何ら変わりないように思えました。
「ところでさ、謝ったてことは俺が上でもいいってことだよな」
「だからそもそも俺たちは男同士だしそういうのはだな……」
二人の喧嘩の理由は、ちょっと童話に相応しくないので、今回はこれだけにしておきます。
めでたしめでたし。
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