プロポーズをもう一度(ルーライ)
2011/06/02 22:26
.でがらしさんからのリクエストで「ライナを知らない間に自分色に染めていくようなルーク」、でした。なんだか違う感じになりました。目指せ光源氏だったはずなのに…… ※現パロでルーク(18)×ライナ(6)という不思議な年齢差に注意
行くつもりの大学は決まっている。周囲から勧められたこともあるが、そこに行けばそれなりの就職先は見つかるだろう。学部と学科も、一応決まっている。
それなりの成績は取っているし、推薦で通るだろうと教師は言う。それでも気を抜かずに受験勉強は続けているが、模試も好判定で。第二希望の大学もそう悪 くはない。
とにかく、ルークはゆるゆるとした受験生だった。
……ゆるゆる、というと誤解を与えるかもしれない。彼はちゃんと努力していた。ただ、塾にも通わず、お隣りの子供の面倒まで見てしまう彼ははたから見れ ば余裕しゃくしゃくという風に見えるだけで。
ちゃんと、彼には悩みがあったりもするのだけれど。
***
「ただいまー」
ルークがそう言って開けたのは、隣家のドアだった。
「……おかえり」
すぐ近くから声が返ってくる。玄関のマットに頬を擦り寄せながら眠るこの家の子供のものだった。
「ライナ、そんなところで寝て、お客様が来たらどうするんですか」
おそらく睡眠を愛する彼のことだから、家に着いた途端に力尽きて眠っていたのだろう。鍵をかけていたことを褒めるべきかどうかに少しだけ悩んだ。しかし マットに涎がついていたので減点。
「ちがうぞ、るーくまってただけだからな」
「涎、拭きましょうね」
ポケットからハンカチを取り出すと少年の口元を拭ってやる。
「おやつ、何がいいですか」
「だんご!」
最近の彼のブームはだんご、らしい。
ルークがライナの面倒を見るようになったのは一年ほど前からだった。
元々、それまでもライナの母親が用事があるときに一緒に留守番していたのだが、それがもう少し頻繁になったのがここ一年だ。ライナの母親が週に二、三日 ほど働き始めたのだ。
一人になってしまう息子を心配する彼女に、ライナの面倒を見ると申し出たのはルークだった。
一人で眠り続けるライナを可哀相と同情したからではなくて。彼が目覚めた時にそばにいてやりたいと思った。
どうせルークも家に帰れば一人だ。
ライナは手のかからない子供だった。一人で眠るのが好き。本を読むのが好き 。
我が儘を言わない彼だから、心配になる。本当はどんな感情を隠しているのか 。ルークには想像することもできない。
だから、ただ隣にいてやることしかできない。
「できましたよ」
声をかけると眠っていたはずの目がぱちりと開く。
「きょうはみたらしか」
「餡が良かったですか?」
「んー、るーくのならなんでもいーや」
「それは良かった」
やはりだんごにはお茶だろう。小さなテーブルに皿と湯のみを二つ。向かい合って座る。
「「いただきます」」
ライナは無言でもぐもぐと口を動かす。
それから、小さく何度も頷いた。
「……どうかしましたか?」
「やっぱりうまい」
「ありがとうございます」
「うぃにっとだんごより、るーくのだんごのほうがうまい」
「ウィニットだんご?」
街にあるだんご屋だ。しかし、何故ライナがそれを?
話を聞けば、最近同じクラスのとある女の子が愛してやまないのがウィニットだんごなのだという。
ライナはそれよりずっとルークの作るだんごの方が美味しいと思っていて。だからだんごが食べたいと言って、食べたらやっぱりウィニットだんごより美味し くて。
「るーくのだんごがいちばん」
まだいくらか眠気の残る表情でそう言う。
「ありがとうございます」
寝癖のついた髪を撫でてやった。
「るーく」
「なんですか?」
「るーく、ヨメにこい」
「……それはまた、突然ですね」
「ん」
どうやら甘やかしすぎたのか。おやつが彼の胃袋をキャッチしてしまったのか 。原因はわからないけれど、プロポーズなんてものをされてしまった。
「そうですね、じゃあライナが高校を卒業したら結婚しましょうか」
***
「いや、なんでそうなるんだよ。さりげなく断っとけよ!」
あれから十二年。幼かった子供は、やはりルークからすれば幼い子供には違いないのだけれど、高校を卒業間近、という年齢になった。
彼との関係はやはり隣に住んでいるということと、時々彼に料理を作りにきてやるということ。それから彼がルークの家に泊りに来るということも追加された 。
一応、手は出してないけれど、気持ちを伝えたのが数年前。ライナが高校に入学年だったはずだ。キスはしたけれどそれ以上は我慢している。
「あと、悩みって何だったんだよ」
「ああ、ちょっと進路に」
あの頃の自分は何でもできる気になっていたけれど、何がしたいのかわからない子供だった。
大学に行ったとして、その先が何も見えていなかった。他人の考える夢を羨みながらも自分の中にだけはどうしても見出すことができなかった。
「でも、あなたを養うためには頑張らないといけないなーと思ったら、楽になりましたよ」
やりたいことも、やるべきこともわからなくて。
それでも彼と歩いていくためならばと、前を見ることができた。
ルークにとっての夢はライナと歩くことになっていたのだろう。
「卒業式」
「はい?」
「来週だけど」
「ああ、御馳走作らないといけませんね」
「そうじゃなくて」
『俺の嫁になるんだろ』
眠そうに、ルークに背を向けて大きく伸びをする。
それでも、耳の後ろが赤くなっているのが見えた。
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