バレンタイン・キッス(シオライ)
2011/02/13 00:37
2月14日。男子も女子もソワソワしてしまう日。
シオンがソワソワしているから、嫌な予感はしていたのだけれど。
バレンタイン・キッス
シオン・アスタール。
クラスメイトどころか学校中の女子生徒から本命チョコレートを貰いそうな、好青年。
カッコイイし頭もいい。運動神経抜群。しかし何よりそれを鼻にかけない性格のよさ。
それが表向きのシオン・アスタールだった。というか、一般的に彼はそういう人間だった。
男子からは憧れられ、女子からは恋をされ。大人からは信頼を得る。
そんなシオン・アスタールが、こんなことをしようとは……誰が想像しただろうか。
チョコレートはどこから調達したのか。まあどこかの漫画の登場人物のように大量のチョコレートを紙袋に入れていたから、それかもしれない。しかし彼のことだからちゃんと自分で用意したもののような気もする。どちらにしても嬉しくないけれど。
ふわりと香るのはただただ甘ったるい匂い。嗅ぎすぎると頭が変になりそうだと思う。
女子はよくこんな甘い匂いに包まれて手作りチョコレートとやらを錬成できるものだ。手先の器用さよりもそんなことに感心してしまう。
甘いのはいい。ただ、いつまでも嗅いでいるのは辛い気がする。
「酔ったから寝ていい?」
そう告げるとシオンは不思議そうに首を傾げる。
「アルコール類は混ぜてないけどなあ」
「チョコの匂い」
ずっと甘い匂いに包まれていると意識がふわふわしてしまう。だから、ライナはこんな幻覚を見ているのだろう。そう思った。
「寝る前に食べないの?」
首に赤いリボン。
日に焼けていない白い肌には茶のチョコレート。
「バレンタインには私をあ・げ・る」なこのシチュエーション……同性からされるとは思わなかった。いや、異性からされるとも思わなかったけど。
「バレンタインには俺をあげる」
ここまで魅力的でないバレンタインチョコレートもないだろう。
「や、いらないんだけど」
「えー」
シオンが唇を尖らせる。いや、可愛くないから。
そもそもその発想はない。気持ち悪い。そう告げるとやはりシオンは不満そうな表情。
「だってありきたりのチョコじゃあ埋もれちゃうだろ?」
埋もれるって。ライナがどれだけ沢山のチョコレートを貰うと思ったのだろう。残念ながらそれはシオンの嫌味などではなく、本音らしい。
ライナが貰ったチョコレートなんてキファ、フェリス、ミルクから貰った義理チョコや母親から貰ったものくらいしかないはずで。あとは「アスタール君に渡しておいて」と渡されてそのまま失敬したのが結構あったか。
「いや、埋もれちゃうよ」
シオンは悲しそうに微笑む。
それにライナはどうせチョコとかくれないからなあ、なんて言う。
「そんなの用意するはずないだろ」
だって、それこそ埋もれてしまうだろうから。
シオンは沢山のチョコレートを貰ったから。
……今更、チョコレートの1つや2つ、増えたところで他のチョコレートと区別ができなくなることは明白。そんなもの、用意するだけ無駄だろう。
甘い 甘い 恋のチョコレート
あなたにあげてみても 目立ちはしないから「シオン」
「?」
「目、閉じろ」
不思議そうにして目を閉じないシオン。まあいいかとポケットに入れてあったものを口に含み、そのまま唇を合わせる。
自分の服にチョコレートがつかないように気をつけて離れるが、シオンはぼうっとしている。何が起こったのか理解できていないようだ。
「美味い?」
笑いながら聞く。 そこでようやく、彼は口の中のチョコレートに気付いたらしい。頷いて、それを噛み砕く。
瞬間、シオンの顔が歪んだ。
「辛っ」
噛み砕いたため、中に入っていたワサビが流れ出たのだろう。鼻をおさえて呻く姿が何とも面白い。
「ばーか」
ちゃんと用意していたチョコレートはシオンの紙袋の中に。ライナの、数え間違えようのないチョコレートが1つ増えていることだってとっくに気付いている。
本当に、2人とも素直に普通のチョコレートを渡せばいいのに。
‐END‐
どうしてこうなったのかしら……いつものことながらニセモノすぎてごめんなさい。
タイトルの通り、某おにゃんこさんの歌がテーマ
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