Clap
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青い風だ、と彼は思った。
風に乗って鼻を突くのは、新しい季節の匂い。
新しい季節が巡る頃には、青い風が吹く。

「もう、春がやってくるよ」

彼は目線を窓に向けたまま吐き捨てた。
水分を含んだその瞳はきらん。と風で輝く。風を弾く。

「知ってるわ」

彼女は可笑しそうに笑った。
風でカレンダーが揺れて、次の月を示唆するようにひらり、とたなびいた。
彼はそれを横目で見つめた。止めろ、と思った。
器用に結われた彼女のおさげも、空を舞った。
彼にとって、それがどうしようもなく、はかなく、見え、た。

「異国の風は何色だろうね」

彼がそう問うと、彼女はそうね、と呟いた。

「何色か賭けましょうか」

彼女は段ボールに物を入れる作業を止めずに、嬉々として声を張った。
段ボールには大きく彼の名前が書いてあった。
2人で行った遊園地で買ったくまのぬいぐるみ。
早起きが苦手な彼女の為に買ってあげた目覚まし時計。
おそろいのマグカップ。
そんなものばかりが段ボールにつめられている。

「当たった方はディナーを奢るの。素敵でしょ?」

微笑した彼女に、彼は不服そうに口を尖らせた。

「それはずるいよ、だって俺は確かめられないんだから」

途端、びゅう、と風が強く彼を押した。
風が目に入ってくる。針で刺されたように、目がちくり、と痛んだ。
その目で彼は彼女を見ると、彼女は形容しがたい表情で彼を見つめていた。
悲しいような、寂しいような、困ったような。そんな表情で。

「不正はしないわ」

けれど彼女はすぐに微笑んだ。
彼は思う。彼女もまた、青なのだと。
水のように、指をすりぬけていく青。

(愛は青だ)

彼は祈る。どうか彼女の暮らす異国の風が青ではないことを。
彼女が青に溶けてしまわないように。










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