黄金に輝く椿を、同じ黄金が円を描いて囲む。真珠が連なった簪を高く結った髪の根元に挿した。それとは不自然に服装はセーラー服。何故だか分からないけれど、私は小さい頃からこの簪を持っていて、それを毎日身につけて学校に通うのだ。

私が歩く度シャランと簪が揺れて、それをすれ違う人達が一瞥した。


教室に着けばおはよう、とクラスメイトが私に声をかける。それに返事をしながら自分の席に腰を落とした。

HRが終わり、数学、古典、化学、国語と授業をこなしていく。そして昼休みになって私は机をつけてお弁当を食べていた友人達に、飲み物を買ってくると告げて自動販売機がある校舎まで歩いた。

「んー。レモンティーかミルクティーか…それとも無難にお茶?」

結構大きい自動販売機の前でどれにしようかと迷う。だって種類が多過ぎる!

「ちょっといいか?」

「っ!…あ、なんだ、黒門くんか…。ごめん邪魔だよね。」

人が来ていたことに気付かなくていきなり声を掛けられたことに驚く。振り向けばそこにいたのは同じクラスの黒門くんだった。話したことは、あまりない。彼とよく一緒にいる任暁くんや今福くんや上ノ島くんとはそれなりに話すんだけど…。けど、彼らと話していると黒門くんは何だか辛そうな、切なそうな顔をこっちに向けるのだ。その度に私の頭はズキズキと痛む。思い出せそうで、思い出せない記憶があって、それが酷くもどかしい。

「苗字、」

「え、うん、なに?」

黒門くんはお金を自動販売機に入れて迷わずボタンを押して飲み物を取り出すと背を向けたまま私の苗字を呼んだ。

「苗字は…その、転生って信じるか?」

『へ、転生…?って、あの生まれ変わる、みたいな?』

「あぁ。」

転生、転生、転生…。何故だか分からないけどそんなことを聞いてきた黒門くんに首を傾げる。転生、生まれ変わること。生まれ、変わる…こと。私は、私は…。

まただ。頭が痛い。

咄嗟に痛む頭部を抑える。

「……ごめん、何でもない。変なこと聞いて悪かったな。」

『っ、ううん、別に…大丈夫。』

黒門くんがそう言った途端、頭の痛みは止む。なんで?

「…そういえば、苗字はその簪、いつも挿してるよな。」

『あ、うん。小さい頃からずっと身につけてるの。なんていうか、挿してなきゃいけない感じがするというか…。』

視線の先の簪について述べると黒門くんは辛そうに、どうしてだか泣きそうに微笑んだ。

「僕も持ってる、持っていなきゃいけない気がするもの。」

そう言って黒門くんが取り出したのは藍色の、髪紐…?

『それ、髪紐…だよ、ね?』

あれ、あれ…?







「ねぇ、伝七?」

「なんだ?」

「あのね、これ。この間の簪の…お礼。」

そう言って藍色の髪紐を渡す……わた、し。それを、受け取るのは、ああ、受け、取ったのは、







『…あ、でん、しち……。』

やだ、なんでわたし…忘れて…。そんな、だって、本当、なんで…。嘘、嘘嘘嘘。

『ごめん、わたし…今まで忘れて、ごめ、ごめんなさい…!』

一気に蘇ってくる記憶。流れてくる涙。

「名前…。」

そう言って嬉しそうに、微笑んだのは、あの時と同じ…




「ありがとう」


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