きっと、私達は顔見知り程度の関係。隣のクラスで共通の知り合いがいて、お互い名前を知っているくらいの。それでも私は彼が好きだ。無愛想に見えるけどただ初心なだけだったり、硬派で真面目なところとか。照れたような笑顔とかを見ると、ふわふわと暖かい気持ちになる。

でも私がどんなに彼を好きでも彼は私のことなど意識なんてしていないから例えすれ違っても私には見向きもしない。それが理不尽にも辛くて、虚しさに心の真ん中がポッカリと穴があいたようにスカスカだ。


ある日、そんな私にも転機が来たのか、昼休みに広い校庭内を歩いていて、丁度中庭辺りに差し掛かったころ聞き覚えのある声が二つ聞こえた。その声は片方は戸部先生で、もう一つは言うまでもなく_____

「今日はここまでにしよう。」

「はい、戸部先生!」

私が日頃思いを馳せる皆本くんだ。
床の張替え工事で体育館の使えない今、中庭で剣道の稽古をしていた様子。戸部先生が去った後、皆本くんは竹刀を竹刀袋に仕舞い、ベンチに置いてあったスポーツドリンクを飲んだ。その隣にあるタオルで汗を拭って少し疲れたように目を伏せて溜息を吐くと、恐らく移動教室でこのまま直で授業に向かおうとしていたんだろう。側に置いてあった教科書とペンケースを抱えてその場を去ろうとした。その際持っていたタオルが地に落ちてた。皆本くんはそれに気付いていない。

チャンスだ、そう思った。

『み、皆本くん!』

タオルを拾って少しばかり声を張って彼を呼ぶ。皆本くんは不思議そうにこっちを振り返った。

『あの、タオル、落ちてたから。』

「あ…。」

ごめん、気付かなかった。そう言って恥ずかしそうに笑う皆本くんに何故か私が顔を赤くする。タオルを渡す時に触れた指先にドキリと心臓が波打つ。手が名残惜しそうに空を掻いた。

「ありがとう、苗字さん。」

『ううん!って、苗字…。』

彼がすんなりと私の苗字を呼んだのを聞いてちょっと拍子抜け。私の名前なんて苗字すら覚えていないのかも、と思っていたから。

「…え、苗字さんであってるよな?もしかして違った?」

『あ、違うの!その、皆本くんが私の苗字、覚えててくれてるのが何ていうか、意外…で!』

私が焦ったようにそう言うと、皆本くんはきょとんと目を丸くした後、ははっと小さく笑った。

「覚えてるよ、2組の苗字名前さん。」

屈託のない笑顔を浮かべて言い放った皆本くんにきゅん、と胸が高鳴る。

「タオル、ありがとう。それじゃあまた。」

皆本くんが去った後、私は今だどくんどくんと音のする心臓の鼓動を抑えるように握った手を心臓の上におく。握った手を更に強く握ると、心臓にまで伝染したのか鼓動を抑える為にした行為なのに、益々鼓動が早くなってしまった。


それじゃあまた、だなんて。
貴方ともう一度話せる時はいつかな、と少しの期待を胸に秘め私も授業に向かうのだった。








コレじゃない感があるけど書けたので満足。
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