和歌シリーズ | ナノ


▼ ものやおもふと ひとのとふまで

気づいてしまった。
自分の異常さに、気づいてしまった。
だって俺は男だ。阿部も男だ。
じゃあなんで男とキスしたいって思ってんだ俺!
「おい大丈夫か?」
「ああああ阿部!?な、何だよ!?」
「顔赤いけど熱でもあンのか?」
相変わらずのしかめっ面をしながら阿部は栄口のおでこに手を伸ばした。
阿部の手は運動後だというのにひんやりとしていて気持ちが良い。
ダメだ、今は部活中。色恋に現を抜かしていないで、体を動かさなくては。
「おでこ熱いけど。・・・一応熱測っとくか」
「大丈夫!」
栄口は慌てて立ち上がった。
「熱ないし元気だから!ほら阿部も三橋のトコ早く行きなよ」
ベンチに置いていたグラブをはめ、日向へ飛び出した。
どこからどう見たって空元気としか思えない行動だが、こうでもしないと平静を保つことができない。
早く顔の火照りを治めなくては。
「おーい栄口ー!早く来いよー!」
田島が彼を手招きする。
「あいよー、今行く!」
どうやらまだ伝えられなさそうだ。
栄口はクスリと笑った。

忍ぶれど色に出にけりわが恋は 物や思ふと人の問ふまで

彼は気づいていなかった。
阿部の顔もまた、赤く火照っていたことを。


[ back to top ]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -