▼ あかつきばかり うきものはなし
幸福に、堅く封をしていた蓋をこじ開けられた気がした。
あれからずっとこのモヤモヤは晴れずにいる。
「椎名?どうかしたか?」
てっちゃんは相変わらず優しい。
優しくて、残酷だ。
「どうもしてないよ」
「そっか、なら良いんだけどよ」
ごめんね、てっちゃん。
俺はてっちゃんに好意を寄せている。
てっちゃんが俺に、これまでもこれからも望んでいるこの曖昧な関係をどこかで壊したいと願っている自分がいるんだ。
気づかなくて良い。
このぬるま湯のようなキズナを、やっぱり俺は壊したくない。
有り明けのつれなく見えし別れより 暁ばかり憂きものはなし
「月が綺麗だね、てっちゃん」
「おお、そうだな」
ばかなてっちゃん。
このセリフの意味も知らないくせに。