和歌シリーズ | ナノ


▼ ひとにしられで くるよしもがな

テレビの中から、それはもう大きな歓声が聞こえる。
『田島悠一郎、やりました!初試合でホームラン!決勝点を決めました!!』
花井は満面の笑みでホームベースを踏んだ元チームメイトを見て目を伏せた。
田島が遠い。
高校の頃よりもうんと伸びた身長も、大人っぽくなった顔つきも。
俺は全部知らない。
『では、ヒーローインタビューに移ります』
出てきたのはやはり、代打ながらも決勝点を決めた田島だった。
『今のお気持ちは?』
『めっちゃ嬉しいです。打つときに、これはゲンミツに打てるって思って―――』
まだあいつ"ゲンミツ"を間違って使ってるのか。
花井はクスリと笑った。
まぁ"ゲンミツに"ってのはあいつの一種のアイデンティティーのようなものだと訂正も矯正もしなかった俺らが悪いんだけど。
『―――花井!』
テレビの中から俺の名前を呼ぶ声が聞こえて、顔を上げる。
『俺約束通り打ったからな、そっちも約束守れよ!ゲンミツに!』
約束。
ああ、そうだった。
そうだったな、田島。
花井の顔がほんのりと赤く染まった。
でもさ、やめてくれよ。
俺はパパラッチに追われたくもないし、元チームメイトから言及されるのもイヤなのだから。

名にし負はば逢坂山のさねかづら 人に知られでくるよしもがな

そう呟いた彼の口元は、小さく弧を描いていた。


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